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「では、残り二家は?」
こうなったらサクサク聞いて、さっさとと帰ろうと私は耐える事を選ぶ。
「どうぞ好きなだけ検めてください、とさ。隠し済みなんだろうな。色々、と」
想定内の事態だったのだろう。
セルヴィス様には慌てた様子は見られない。
「あらまぁ。どうします、陛下?」
「決まっている。隠し事、っていうのはいずれバレるものだ」
紺碧の瞳が険しく細められる。まるで、狩りをする狼のよう。
その目に全てを暴かれそうで、自分に言われたわけではないとわかっているのに、隠し事の多い私の心臓はドキっと大きな音を立てた。
「そう、ですね」
「というわけで、この件の現状はここまでだ」
「そうですか」
帝国内部の情報なんて、本来他国の人間に漏らしていい内容ではないだろうに。
何故わざわざ私に? という疑問は拭えないがとりあえずお話が終わったことに安堵する。
私はようやくこの"突っ込んだら負け"状態から解放されると内心で歓喜しつつ、
「では、私はこれで」
と笑顔で逃走を試みる。
が、
「では、散歩がてら送るとしよう」
何故かセルヴィス様も立ち上がる。
いや、ちょっと待って! 耳! ケモ耳が出たままですけど!? と焦る私の心情なんて丸っと無視して。
「今日は天気がいいな。せっかくだし庭園の方を遠回りしてから後宮に戻るか」
などと宣う。
いや、待って!? そこ、絶対人がめちゃくちゃいるところ!! と内心で叫ぶ私。
「あの、陛下! わざわざお送り頂かなくても」
お忙しいでしょうし、と理由をつけて断ろうとするが。
「なんだ。花は好きだろ」
取り合わないセルヴィス様。
皇帝陛下の正体が人狼だとバレていいんだろうか。いや、良くないよね!? と何故か私の方が焦る。
「えっと、お花は好きですが……そのぉ、今日は体調が優れなくて!」
「医者を手配するか?」
「い、いえ! そこまででは」
マズイ。藪蛇だった、と私は即座に首を振る。この間は応急処置だけだったから良かったものの、じっくり身体を調べられたらリープ病であることがバレてしまう。
「まぁいい。とりあえず送る」
そんなケモ耳つけて紳士ぶられても、と心の底から困る私。
えー何これ!? セルヴィス様はもしかしてケモ耳生えてるの気づいてない!? もしくは私にしかケモ耳が見えてない……とか?
なんて考えているうちに本当にセルヴィス様が出て行こうとする。
「お待ちください!!」
失礼だと思ったけれど、私は本日羽織ってきた真っ赤なローブのフードをセルヴィス様の頭に被せた。
「今日は日差しが強いので」
もう秋に差し掛かっているこの時期に言い訳としてはだいぶ苦しいけれど仕方ない。
他に方法が思いつかなかったんだもの。
そんな私の方を振り返って、
「……コレはだいぶ目立たないか?」
くくっと喉を鳴らし、真っ赤なフードから顔を覗かせて、楽しげに尋ねるセルヴィス様。
「いえ、割とだいぶ似合ってますよ?」
しれっとそう言った私の方にびっくりするくらいの早さで手を伸ばし、私を抱えたままソファーに座り込んだセルヴィス様は、
「何も言ってくれないから、本当に見えてないんじゃないかと思った」
と楽しげな口調でそう告げる。
その瞬間、私はようやく悟った。
あ、これはツッコミ待ちだったんだ、と。
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