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39.偽物姫とハニートラップ。
私は両手を軽く掲げ、白旗を上げる。
「私は何も見てません。口外もしません。なんなら誓約魔法で縛って頂いても構いません」
売国交渉すらできぬまま人質生活どころか人生終了してしまっては非常に困る私はそう申し出る。
「……別に隠してない」
知ってる人間が極端に少ないだけで、なんてセルヴィス様はおっしゃるが、それはもう国家機密と同意語ではないだろうか。
「いや。ベラには意図的に隠していた、か」
シュン、と耳が垂れる。
いつもの威厳はどこにいったんだろうか? ケモ耳がひたすら可愛いんだけど。と意識を持っていかれかけて、そういえばこの人もビジネス暴君だったと思い出す。
「すまなかった」
私を膝に乗せたまま、セルヴィス様は私の目を見て謝罪する。
「……それは、一体何に対しての謝罪でしょうか?」
「ずっと、黙ったままで君の寝所に潜り込んでいたし。他にも色々」
色々、と言われ今までのやり取りを思い出した私は自分の頬がじわじわ熱を帯びるのを感じ、両手で顔を覆う。
「ほんっとーーーに、申し訳ありませんでした!!!!」
マズイ、一国の陛下相手に夜な夜なモフってペット扱いとか不敬が過ぎる。
っていうか人間に変換したら絵面がヤバすぎる。毎夜同衾って私完全に痴女じゃないっ。
狼バージョンのこの人相手にアレやコレやと欲望のままに癒しを求めまくってた。しかも絶対本物のイザベラならやらないような事を……。
ここにイザベラがいたらすぐさまお説教案件だ。
「いや、だから謝るのは俺の方で」
「いやいやいや、そんな……私がっ」
顔を上げられずにいた私の頭上に、噛み殺したような笑い声が落ちてくる。
「……陛下?」
「とりあえず、顔を上げてくれないか?」
そう促され恐る恐る顔を上げれば、優しげな色を浮かべた紺碧の瞳と近い距離で視線が交わった。
それは見間違いようがなく、幾度も夜を共にした黒い狼の目で。
「……ホントにヴィーだ」
私の中でヴィーとセルヴィス様が同一の存在なのだとストンと腑に落ち一致する。
思わず声に出ていた私のつぶやきを拾い上げ、満足気に笑ったセルヴィス様は、
「ああ、そうだ」
私の手を取り自身の頬に持っていき、触れさせる。
「お互い悪かったと言うのなら、互いに不問とする事で構わないか?」
「……陛下が……それで良いとおっしゃるなら」
元より人質の意味合いが強い側妃の私には選択権がない。
不敬だと咎められないだけ僥倖なんだけど。
「そうか、良かった」
なんでそんなに嬉しそうなの? と疑問符だらけの私に、
「では、これからは陛下ではなく、名で呼んで欲しい」
と親しげに話しかけるセルヴィス様。
「い、いえ! 流石にそれはっ」
「ヴィーでも構わないが?」
「もっとダメですよ!?」
「何故だ? 愛妻家は名前か愛称で呼ぶのだろう? なら逆も然りだろ」
待って。
本当に待って。
セルヴィス様の距離の取り方が本当に可笑しい。
もしやあの晩飲ませてしまった薬は獣化の発作を抑える副作用として媚薬か惚れ薬の作用でもあるのでは!? とぐるぐると考えが纏まらす混乱する。
「そ、そういうのは偽物の妃ではなく、正妃をお迎えになった時にされるのがよろしいかと!」
とりあえず降ろしてと厚い胸板を押して抵抗を示した私に、
「……コレを見てまだ俺がまともに正妃を迎えられるとでも思っているのか?」
やや苦笑した声が落ちて来た。
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