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搭のすぐ下の部屋では、連合国軍の指揮官達が話し合っていた。
「コルティア国には、人質として王太子とその妃を誘拐したと既に知らせました。日没までに敗北を表明し、全面降伏するならば人質は解放する。そうでない場合は即刻二人の命はなくなると」
「うむ。敵の動きは?」
「今のところまだありません」
「もしこのまま何もなければ?」
「もちろん、二人の首を送り届けてやるまでよ。ははは!」
「ご親切にどうも。自分で帰れますのでご心配なく」
突如降ってきた声に、ざわっと部屋中がざわめく。
「なんだ?一体誰だ?!」
「お呼びですか?」
バリン!と窓を割って、フィルとクリスティーナが部屋に飛び込んできた。
「お前達!どうやってここに?!」
「えーっと、自分の足で来ましたけど何か?」
「おのれ、捕えろ!」
一斉に飛びかかる敵に剣で応戦しながら、クリスティーナはフィルに叫ぶ。
「いくらなんでも私達二人では無理よ!」
「大丈夫。二人じゃないさ」
え?とクリスティーナが首を傾げた時、ドーン!と凄まじい音が響き渡った。
「な、なに?」
ガタガタと床が揺れ始めて、クリスティーナは思わず手を止める。
「油断は禁物!」
そう言ってフィルは、クリスティーナに振り下ろされた敵の剣を横から弾き飛ばす。
「だろ?」
そしてニヤッとクリスティーナに笑いかけた。
「ねえ、説明してよ。この揺れは何?二人じゃないってどういう意味なの?」
キン!キン!と激しく敵と剣を交えながらクリスティーナは叫ぶ。
「さっきの旗。白二つと赤二つは味方からの援護の合図だ。間もなく爆弾で要塞を吹き飛ばすって意味のな」
「そうなの?!味方って、コルティア陸軍ってこと?」
「それだけじゃない。東のゼマスと西のカルディア国もだ」
「は?どういうこと?」
「んー、戦いながらだと説明しづらい」
「私だって、戦いながらだと聞きづらいわよ!」
その時、また新たにドーン!と爆発音がして天井が崩れてきた。
「危ない!」
フィルがクリスティーナに飛びかかり、床に倒れたクリスティーナをかばうように覆いかぶさる。
ガラガラと石の塊が振り注ぎ、フィルの身体に当たる鈍い音がした。
「フィル、大丈夫?」
「黙ってじっとしてろ!」
「でも…」
「女が男の心配なんかするな!」
「都合のいい時だけ女扱いしないでよ!」
抗議の声を上げた時、天井の大きな石がグラリと揺れるのが目に入った。
「フィル!」
クリスティーナは身体を右に反転させてフィルの上に覆いかぶさる。
ガツンと固い音がして、二人のすぐ左横に石の塊が突き刺さった。
「バカ!無茶するんじゃない!」
「何を言ってるのよ。あのままだったら今頃私達、串刺しのお団子になっていたわ」
「おいおいお二人さん。せっかく助けに来たのに、イチャイチャの真っ最中ですかい?」
え?と二人は顔を上げる。
「オーウェン隊長!」
顔をすすだらけにしたオーウェンが、頭をポリポリと掻きながら見下ろしていた。
「よっ!お待たせ。敵は全部ひっ捕らえたぞ。早くここから出よう」
フィルとクリスティーナは頷くと、オーウェンと共に螺旋階段を駆け下りる。
外に出て搭を振り返った瞬間、ゴーッと凄まじい音を立てて要塞は崩れ落ちた。
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