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王太子の正体
「ちょっと、下ろしてってば!自分で歩けます!」
「嫌だね。下ろした途端にとっとと逃げるに決まっている」
「逃げませんから!早く下ろして!」
「どうだか。君はしれっと嘘をつくからな」
「嘘をついたのはあなたでしょう?!」
王宮に戻って来ると、フィルは馬車から降りるなりクリスティーナを抱き上げて歩き始めた。
周りの目が気になり、必死で下ろせと訴えるがまるで聞き入れられない。
じたばた暴れているとロザリーが駆け寄ってきた。
「アンジェ様!ああ、良かった。ご無事ですか?どこかお怪我は?」
「大丈夫よ。ロザリーは?怪我はない?」
「わたくしのことなど、よろしいのです。アンジェ様、さぞかし怖い思いをされたのでしょう?ああ、わたくし胸が痛くて…」
するとフィルが、プッと吹き出す。
「ロザリー、気にすることはない。全くもってそんな心配は無用だ」
「はあ?どうしてあなたがそんなことを言うのよ?」
「じゃあ何か?君は囚われている間、ずっと怯えて震えていたとでも?そうだよなあ。まさか剣を振りかざし、バタバタと敵を倒すなんてこと、する訳ないよな?」
うっ…とクリスティーナは言葉に詰まる。
フィルはロザリーが開けた扉から部屋に入ると、ようやくクリスティーナをソファに下ろした。
「さてと。俺はこれから国王に報告に行ってくる。ロザリー、あとは頼むよ」
「かしこまりました」
そして最後にグッとクリスティーナに顔を寄せた。
「またあとでな。俺の花嫁」
「はっ?!」
目を見開くクリスティーナにクスッと笑うと、フィルは部屋を出ていった。
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