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「皆、ニ日間不在にして申し訳なかった」
国王への報告を済ませたハリスは近衛隊の詰め所に向かい、隊員を前に話し始める。
「連隊長、怪我はもうよろしいのですか?」
「大丈夫だ。たった今、国王陛下に今後の戦略についてご報告申し上げてきた。まずは西の国境で敵の侵略を食い止めている陸軍の応援に行く。出発は明朝五時。各自準備を始めてくれ」
「御意!」
クリスティーナは目を見開いて父の様子をうかがう。
(やっぱりこのまま戦地に赴くつもりだったのね。陛下への報告なんて、屋敷を出る名目にすぎなかったんだわ)
するとハリスの正面にいた体格の良い隊員がチラリとクリスティーナに目を向けた。
「連隊長、その若者は?」
「ああ、紹介する。私の遠い親戚で、今日は部隊の見学をさせに連れてきた…」
「クリス=ハーランドと申します。今日から入隊させて頂きます。よろしくお願いいたします」
母親の旧姓を名乗り、深々と頭を下げると、ハリスがギョッとしたように慌てた。
「何を言う!お前などまだまだ実力不足で足手まといになるだけだ」
「いや、そんなことはありません」
と、大柄な隊員が再び口を開く。
「連隊長、今我々は危機的状況です。どんな人材でも構わない。一人でも多く人手が欲しいところです」
そう言うと、クリスティーナにニッと白い歯を見せて笑いかけた。
「大歓迎だ、クリス。俺は第一部隊隊長のオーウェン。よろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
がっちりと握手を交わす。
「ん?お前、いくつだ?」
「はい、十七です」
「そうか。だからまだ手も華奢なんだな。これからひと回りは大きくなるだろう。俺が鍛えてやるよ」
「ありがとうございます」
クリスティーナが礼を言うと、オーウェンは頷いてからまたハリスに向き合った。
「それで、そっちのもう一人は?」
ん?とクリスティーナもオーウェンの視線を追う。
ハリスの斜め後ろに控えている黒髪の長身の男性が目に入った。
「ああ。今日から入隊する新メンバーだ」
ハリスが振り向くと、男性は一歩前に歩み出た。
「フィル=ギルバートです。よろしくお願いいたします」
スッと頭を下げる立ち居振る舞いが、なんとも優雅で品がある。
「フィルか。お前もまだ若いな。いくつだ?」
「二十歳です」
「そうか。線はまだ細いが身のこなしは良さそうだ。連隊長、クリスもフィルも、私の部隊で面倒見させてもらえませんか?」
えっ!とハリスは狼狽する。
「構いませんよね?俺、こう見えて結構面倒見はいいんです」
「そ、そうだな」
「よし!決まりだ。クリス、フィル、今日からよろしくな。早速俺の部隊を紹介するよ」
二人の肩を抱き、隊のメンバーの輪の中に連れて行くオーウェンの後ろ姿に、ハリスは密かにため息をついた。
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