どうか無事で……

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どうか無事で……

さて、鬼役を買ってでたミリキアは困り果てていた。 そもそも、青葉台公園は敷地が広い。木々の間を縫うように敷かれたジョギングコースは、1000mにも及ぶ。植木や草むらに身を隠すのだとしたら、そのコースをいちいち外れ、寄り道をしながら1周することになる。また、敷地内には市営の野球場やアスレチックなどの遊び場もあり、すべてを探し回るのにはとてつもない労力を要する。ただ、ミリキアはそれをやってのけるくらいのやる気は持っていた。 しかし、ジョギングコースの脇を探しても、アスレチックの中を漁っても、格子で仕切られた野球場をぐるりと見渡しても、1人も見つからない。おかしいなぁ、と思ってもう1周してみても、やっぱりいない。 これはさすがにヘンだ! とミリキアは自分の探す能力を疑った。しかし、公園内の植え込み、施設の陰以外に身を隠せる場所はない。彼女は充分にできることをやりつくしていた。でも、1人も姿を見せてくれない。 ミリキアはとうとう、3人のことを心配するようになった。もしかして、事件に巻き込まれたりして、今頃は全然違う場所に連れていかれたりしているのでは?  そうだとしたら大変だ! とミリキアは慌ててスマホのLINEを起動し、電話をかけた。ドキドキする胸を左手で抑えながら、スマホを握った右手をその上に被せるようにして、リルウの声が聞こえてくるのを待った。着信音は静かに鳴り続けており、まるで、落ち着いていられないミリキアを諭しているようだった。 しかし、スマホは着信音を鳴らすだけで、リルウに繋ぐことはしてくれなかった。まったく同じリズムの音だけがずっと聞こえたせいで、ミリキアは心を空っぽにした。 そこで彼女ははっきりと理解した。 向こうは一大事に見舞われている、と。 じゃあ、どうすればあの3人を助けられるんだろう? 110番にかけてもいいのかな? いや、そもそも何の事件に巻き込まれているのかも分からないのに警察を呼んでも、どう説明したらいいのか分からないよ。そんな状態で彼らを頼るのは、ちょっと……。 だったら、自分の力であの3人を助け出すしかない! でも、どこにいるのかは分かんない。事件を起こす犯人が、わざわざあたしに分かるような場所へ連れていくわけがないし……。というか、そもそも犯人が誰なのかが分からない。知っている人かもしれないけど、大抵は知らない人のはず。朝霞市内だけでも、あたしの知らない人は13万人はいる。これじゃ絞り込めない! ミリキアは考えることが多すぎて、パニックに陥っていた。かくれんぼ中にみんなが見当たらないこと、事件に巻き込まれたこと、その犯人はどんな人なのか、そこから導き出せる自分のやるべきことは……。 やはり、自分1人で考えるには無理があった。ここは、誰かに頼るしかなかった。パニックで思考回路が狭くなっていたミリキアは、ダメもとでもう一度リルウに電話することにした。相手はフロウガンやフェリでもよかったのだが、それは、彼女の心にほとんど余裕がないことを意味していた。 同じリズムを刻みながら、着信音が鳴り響く。ミリキアはさっきよりも心臓をドキドキさせていて、さらに息苦しさも覚えている。米軍機に焼け出された野原のように荒れた胸をなんとか左手で押さえて、震える右手をそこへ重ねた。もしもまた電話に出なかったなら、ミリキアとしては万策尽きたも同然だった。 そんな中、スマホからリルウの声がした。 「今日は、4月1日でしょ?」
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