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――ガチャガチャ。
(ん?帰って来た?)
ドンドンドンと寝室に足音が近づいてくる……。
夫がハァハァと息を切らしている。
「どうしたの?」
「山田さんに帰れって言われた」
「どういうこと?」
「これ、山田さんから。山田さんに着いたって電話する」
山田さんからと差し出された紙袋の中を覗くと立派なお花見弁当が二人分入っていた。
「あー、すいませーん。いま着きました。ベッドで泣いてたんですよ、俺がいなくて不安だったみたいで」
笑いながら夫がベッドで横になっている私の頭を撫でる。
(キモいな……)
私に「電話を代わってくれ」という素振りをする夫からスマホを受け取る。
「ごめんね、知らなくて。舞ちゃん妊娠おめでとう! 具合悪いところ旦那さん誘っちゃって申し訳なかったね」
「いえいえ。本当にいつもお世話になっております。こちらこそ美味しそうなお弁当もいただきまして、お心遣いありがとうございます。」
「いや、たいしたことないよ」という山田さんに私は続ける。
「主人は、商店街の皆さんとのお花見を『一生に一度の花見』と言うくらい楽しみにしていたんです。なので私の体調が少し悪いぐらいで行けないのも残念だと思いまして」
少しの沈黙の後、山田さんが小声になって言う。
「この間うちに二人で食べに来た時、うちの奥さんがうんと心配してたんだ。年の差があって舞ちゃんが大変じゃないかって。舞ちゃんはうちの娘と同じくらいの年だし困ったことがあったら何でも相談して。俺じゃなくて奥さんの方でもいいからね」
( 山田さんありがとう。実は、おばさんが夫の私への強い口調を心配してくれて、この間こっそりLINE交換しました!)
「心強いです! 実家も遠いので困ったときは甘えさせていただきます。今日のお弁当もとても嬉しいです。蕁麻疹は落ち着いてきましたし、主人も楽しみにしていたのでこれから主人をまぜて頂いてもいいですか?」
少し離れていたところにいた夫の顔がパァと明るくなる。電話を切るなり「それじゃ、行ってきまーす」と出かけて行った。しばらく帰ってこないだろう。
山田さんと話して気持ちが軽くなった。夫が私の具合の悪さを自分から言うとは思えない。きっと山田さんの奥さんが私の具合の悪さをご主人に伝えたのだと思う。朝LINEしていたから。お弁当もあらかじめ用意してくれていたのかもしれない。奥さんにお礼のLINEを入れた。
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