1 巨人

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 空を見上げると夕日が鮮やかに校舎と私達を照らしていた。先生に私が仁奈の肩に乗っている事を知られると危ないから止めろと怒られるので、肩に乗るのはいつも十分間だけだ。四階建ての校舎なので教室から話しかけても声は届くが、仁奈は頑なに私を下ろそうとはしない。時間制限が無かったら、永遠に下ろさないのでは無いかと思えるくらいに。 「私、まるで桜みたい」 「淑やかで優しいもんね」 「そういう意味じゃないよ。桜って春になって花弁を綺麗にしないと見向きもされないから。葉桜の時も枯れて花をつけない時も、桜の木はそこにあるのにね」  木の下には桜を楽しむ生徒が居て、それを見下ろす仁奈の瞳は何処までも冷たかった。誰かが仁奈の事を怪獣と呼んだり、年下の生徒が冗談で仁奈を文化財に登録してやろうと言った時もこんな瞳をしていた。 「私は行きたい所に行けない、巨人だから」  すぐに壊してしまうからね、と躊躇いがちに付け加えた呟きに私は声を出せずにいた。  今までどれだけ傷付いてきたかなんて分からない。過ちの数だけ仁奈は濃影を作ってきたのに。私は甘やかされて馬鹿なままだから仁奈の事を何にも知らない。  それが堪らなく怖い。  無知な春のままでは季節は巡らないから。
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