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2 怪物
「出席番号二十四番、鳩羽優子、入ります」
高校三年生に進級して最初に行われたのは将来の進路を先生と話し合う事だった。埃被った古びた校舎の一部屋、陽光がカーテンに塞がれていて暗かった。天井の蛍光灯は切れかかっているのか点滅していて、あまり長居したくなかった。
新しい担任は五十代くらいの皺が深い先生で、この高校では一番怖いと評判だった。私も二年生の時に数学を担当してもらっていて、ベクトルの話になるとやけに饒舌になる人だと記憶している。
「優子さんは……進学希望でしたね」
「はい。東京で薬学を学びたいんです」
「なるほど。第二志望と第三志望も薬学に関する大学を選んでますね。一貫性はあるとして……全部東京ですが、何か拘りでもあるのですか?」
「この田舎も好きで離れ難い気持ちはあるんですけど、都会で知見を増やしたいんです。まだ知らない事ばかりで、知る努力をしないと、ずっとこのままだから」
面接中も考えていたのはあの日の仁奈の寂しげな表情だった。私の知らない世界で荒波に揉まれて育ってきた姿を思い知る度に、隣で馬鹿げた言葉を投げかけるべきではないと悩む。
桜は必ず春に何処かで咲く。
じゃあ私は? 仁奈は?
私達は何処で咲けばいいのか?
「それとも、もう既に枯れ落ちているのか」
「優子ちゃん? 顔が凄く怖いよ」
「……ごめん。ちょっと考え事してた」
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