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「どうして、都会に進学するの?」
「……それは、やりたい事があるから」
「だから私を置いていくんだ。私には優子ちゃんしかいないのに何の相談も無しで。優子ちゃんも結局観客だったんだ。お花見して、花弁が散る様を写真に収めて、枯れ落ちたら捨てるんだ!」
「そんなつもりじゃ……」
「正直に言ってよ! デカくて鬱陶しくなったってさあ!」
道路を抜け、川沿いに辿り着く。
桜並木を通り抜けて土手に滑り落ちる。複雑な根を張る痛みを互いに抱えたまま、遂に歩みは止まった。対岸の川沿いにも桜が咲き乱れている。
息を切らして疲れた様子の仁奈の目を盗んで降りようとするが、十メートル下は大小様々な石ばかりで、落下すれば生き残れる芽は無い。私の命は、巨人の掌の上に委ねられていた。
「私、今日お花見会に行ったの」
「えっ……」
「皆優子ちゃんの事待ってたよ。あんなに友達がいたなんて知らなかった。多分、人間なら普通の事なんだろうね。でも私、やっぱり憎らしいの」
仁奈は川の急流よりも勢い良く涙を流した。
「もう歩けないの。暖かい春はいずれ終わるから」
桜は必ず春に何処かで咲く。
じゃあ私は? 仁奈は?
私達は何処で咲けばいいのか?
誰かに花見をしてもらう為に咲くのか?
仁奈、あなたも同じ恐怖に花弁を散らしたのか?
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