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「もう何も感じたくない。この分厚い皮膚じゃ、誰かの体温も言葉も届きやしない。もう私は、傷付き疲れてしまった、接ぎ木だらけの醜い大木だから」
座り込んで俯く仁奈は体育座りで涙を私に見せないように隠す。何も見たくないと意思表示するように、心を塞いでしまっていた。
「私、飛ぶわ」
「えっ……?」
「今仁奈ちゃんは座っていて少なくとも十メートルよりかは可能性がある。それに私、ちょっと嬉しいの」
恐怖はある。怒りもある。
冷静じゃない。嘘はつかない。
正直、何も知らなかった自分に戻りたい。
でも、春は既にやってきてしまったから。
「知らない恐怖を、互いに持っていたって事!」
「ま、待って……!!」
「しっかり春を楽しみな、真壁仁奈!」
強く皮膚を踏み締めて飛び上がる。
落下までの数瞬に走馬灯を見終えて、次は下を見据える。目を瞑る力すら飛ぶ一瞬で使い切ってしまった。もう、後は落下のみ。
「誰かの言葉、もう届かないんじゃなかったの?」
「……本当に馬鹿だよ、私達って」
友人の掌が私を包み込んでいた。
二人見つめ合って、吐息を漏らす。互いに震えが収まらない様子で自然と涙が溢れてきた。その涙が私が助かった安堵感から流した物だと直感した時、胸が苦しくなるほどに熱くなった。
「やっぱり、桜みたいに優しいね」
「……私、これからどうすればいいんだろう」
「それは自分で考えなきゃ。私も手伝うけど、結局決めるのは仁奈ちゃんなんだから」
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