3 怪獣

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「もう何も感じたくない。この分厚い皮膚じゃ、誰かの体温も言葉も届きやしない。もう私は、傷付き疲れてしまった、接ぎ木だらけの醜い大木だから」  座り込んで俯く仁奈は体育座りで涙を私に見せないように隠す。何も見たくないと意思表示するように、心を塞いでしまっていた。 「私、飛ぶわ」 「えっ……?」 「今仁奈ちゃんは座っていて少なくとも十メートルよりかは可能性がある。それに私、ちょっと嬉しいの」  恐怖はある。怒りもある。  冷静じゃない。嘘はつかない。  正直、何も知らなかった自分に戻りたい。  でも、春は既にやってきてしまったから。 「知らない恐怖を、互いに持っていたって事!」 「ま、待って……!!」 「しっかり(いま)を楽しみな、真壁仁奈(まかべにいな)!」  強く皮膚を踏み締めて飛び上がる。  落下までの数瞬に走馬灯を見終えて、次は下を見据える。目を瞑る力すら飛ぶ一瞬で使い切ってしまった。もう、後は落下のみ。 「誰かの言葉、もう届かないんじゃなかったの?」 「……本当に馬鹿だよ、私達って」  友人の掌が私を包み込んでいた。  二人見つめ合って、吐息を漏らす。互いに震えが収まらない様子で自然と涙が溢れてきた。その涙が私が助かった安堵感から流した物だと直感した時、胸が苦しくなるほどに熱くなった。 「やっぱり、桜みたいに優しいね」 「……私、これからどうすればいいんだろう」 「それは自分で考えなきゃ。私も手伝うけど、結局決めるのは仁奈ちゃんなんだから」
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