ローレライは歌う

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ウー、ウーイー、キーアーアー  野菜の世話が終わって食事をし、デザートを食べながらあの音を聞いてみる。相変わらず不思議な音だ、本当に歌に聞こえなくもない。しかし、川口は目を見開いた。 「止めてくれ」 「はい」  突然険しい顔で言われローレライは音を止めた。 「やっぱりな。聞いてる時体調がおかしい」 「心拍数がわずかに上がっていますね。本当にわずかに、ですが。階段を上ったくらいの上昇です」  基地内ではAIによる健康管理は絶対だ。体につけたモニタリングチップにより常にデータリンクされている。 「気がつかなかったか?」 「数値は確認していましたが。三ヶ月ぶりのプリンにテンションあがったのかと思いました」 「ガキか俺は。それはともかくテンションか、なるほど。吊り橋効果ってあるだろ」 「緊張感ある場所では興奮が性的興奮にすり替わるやつですね」 「緊張、ドキドキする。交感神経が優位になってドーパミンが分泌される。信じられんが、この音興奮作用があるのかもな。だからまた聞きたくなる」  実際音を止めたら心拍数は正常だ。ローレライは音データにロックをかけた。 「今後使用権限は私になります」 「そうしてくれ、あぶねえわ。なるほど、人魚もそういう歌が得意だったのかもな」 「誘惑は危害を錯覚したモノということですか。興味深い解釈です」  こういう発想は人間の面白いところだ、とローレライは思う。 「歌はリラックス効果があるし、気分を高揚させる。漫画みたいな、人の感情や体調をおかしくする歌があっても不思議じゃねえや。ワンフレーズが二十番ぐらいまであって、組み合わせながら繰り返しで流れてるんだなこの音」 「私の解析なしにそこまでわかっていたのですか」 「一応天才学者だから俺」 「あっさり研究を盗まれるあたり心のセキュリティーはザルを通り越して流しそうめんのようでしたけどね」 「やかましいわ」  何らかの規則性はある。しかし頭で考えただけではそれが一体何なのかまではわからない。音を出さなければ問題ないので、音階に書き起こしてもらったのだが川口は不満げだ。 「音楽さっぱりだから、グラフや波形として捉えてみるか」 「普通音楽と言うのはそういうものだと思います」 「楽譜見ると二秒で眠気が出るんだよ俺。XY軸の方がわかりやすい」 「私が持っているデータの基本的な『人』に該当する定義をことごとく外しますねあなたは」
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