ローレライは歌う

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 働かなければ給料は入らない。しかし特にノルマも目指すところもなく、ひたすら海の中で適当に過ごす毎日だ。正直、金が必要な生活ではないので何一つ困っていない。楽しみも見つけた。 「その間見つけた不思議な音は解析できたか?」 「一番近いのは鯨の鳴き声ですが。比較しようにも私にはデータが足りません」  特にやることもないので海の中の音を調べている時だった。明らかに音階があったのだ。  音を発するのは鯨やイルカなどの哺乳類のコミュニケーション等がある。しかし照らし合わせてみてもそれらとは微妙に違う。どうせ暇だし調べてみようかということで、ローレライに任せてみたのだが。 「動物にしては音域が限定的です。どちらかというと声帯を持つもの、歌に近いですね」 「人魚の歌声だったりしてな」 「人魚が歌うのなら、人間に害をなすためなので水上ですよ。水中では歌いません」 「確かに」 「川口、全く関係ない質問をしていいですか」 「おう」 「なぜ私の名前をローレライにしたのですか?」  この施設管理責任者としてAIに名前をつける際。それほど考えた素振りもなく川口はローレライと名付けた。 「海の中で喋り相手って言ったら、妖精の方が小洒落てるだろ」 「なるほど、と言いたいところですが。残念ながらローレライは海ではなく川です」 「え、マジ? 人魚なら海じゃないのか」 「ドイツのライン川に残る言い伝えですよ。人魚というより水の精霊という考えのようですが」 「じゃあ別にいいだろ、俺が川口なんだから」  あっさりとそう返されてローレライは黙り込んだ。良いコンビだというのが改めて肯定されたようで、もしかしたら嬉しいのかもしれない。 「では人魚らしく歌いましょうか」 「何だ、滅びの歌か?」 「メタル般若心経ザビエルバージョンⅡ、いきます」 「嫌な予感するからヤダ」 「ロックはキノコが良く育つんですよ。今あなたが食べてる椎茸は釈迦如来バージョンで育ったんですから」 「椎茸になんつうもん聞かせてんだお前。ストレスかかりすぎてうま味が増してるとかじゃないのか。ストレスチェックやらせてみろ、鬱病かもしれないだろ」 「椎茸のメンタルヘルスは管轄外です。そろそろ野菜の手入れの時間です。腐葉土も頃合いですよ」 「あいよー」  深海基地は長期間滞在することを想定して完全に自給自足である。太陽の光が届かないので電気を使って人工的に紫外線などを当てている。  人間も光を浴びなければ骨がもろくなり、鬱病を発症しやすくなってしまう。自律神経やメンタルを整える意味でも、ライトを浴びながら植物を自分で育てて自分で食べるプログラムが組み込まれている。 「効率よく光を浴びるために、全裸でやってもいい?」 「どうぞ。人間は一人になるとどこまで猿に回帰するのか興味がわきました」 「わかったよ、ちゃんと服着る」
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