ローレライは歌う

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 心地良い掛け合いをしながら、川口とローレライは録音したデータの解析を始める。研究者というだけあって、川口は調べ物や考え事をしているときはとても真剣でどこか楽しそうだ。 「全く興味なかったので聞かなかったのですが、ほんの少しだけ興味が湧きました。あなたは何の研究をしていたのですか」  ローレライが川口にプライベートの質問をするのは初めてだ。旧世代だけあって事務的な事しか聞いてこなかった。言われたことに対して返答はするが、いわゆる好奇心や興味というものはまだあまり育っていないらしい。 「古代文明の研究だよ。火星探査で文明の痕跡らしきものが見つかって、マヤ文明よりも前の時代と共通点があるんじゃないかってことに気がついた」 「歴史的大発見を、なんやかんやまるっととられたわけですか」 「俺の中では親友だったんだけどな。それまで俺に協力してくれてたやつも、手のひら返して俺が極悪人みたいな言い方してさあ。結局世の中は金とイケメンのために回ってんだよな」  どうせ俺は貧乏な無精髭のおっさんですよとぼやきながら、打ち込み終わったデータを複数のウインドウに並べる。 「音楽っつうか言語みたいだな。音階一つ一つに言葉を当てはめるとしたら、文字通りこれは歌だ。知的生命体でも住んでるのかね、深海には」 「私が結論を出す前に結論付けるとか、あなたの頭の中は一体どうなってるんですか」 「主にタンパク質と脂質が詰まってますが何か?」 「思考回路がちょっとおかしいってことですね、わかりました」 「おいこら」 「それはともかく。ここから先は私が解析を引き継ぎますので、何かわかったらお知らせします」 「そうだな。さすがにこの先は人工知能とスーパーコンピューターの演算がないと無理だ。わかったからなんだって話だけど。まぁいいや、暇つぶしになるし」  ご馳走さん、と食器を片付ける川口。体調は問題なさそうだ。ローレライは万が一に備えて、この音の解析を最優先で始めた。深海では些細なことが命とりだ。危険の芽は摘んでおきたい。  基地の中ではすべての廃棄物は資源となる。リサイクルや水の生成、あらゆる自給自足を想定しているため計算上では永遠にここに住むことができる。設備の劣化も計算上では二百年後だ。  生きている実感を持つために、あえてほんの少し不便に設計しているため起きている時間はやることが多い。
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