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「他に対策のしようもねえし。潜水艇はロックされてた、あの野郎の仕業だ」
「私では解除できません」
「だろうな。俺は完全にここに閉じ込められたわけよ。でも研究データなんて俺が持ってるわけねぇし、それを話したところで通じねえよ」
頭に血が上った相手に何を説明しても受け入れられるわけがない。本当にそんなものは存在しないといっても、そんなはずないだろうと絶対に信じない。宝と一緒だ、出るまでやる。
「何が抜けていたのですか」
「コミュニケーション方法だな。普通に考えれば言語や文字なんだが、それらしいものが一切無い」
「それは最初に気にすることでしょう。惑星規模なんですから」
「俺が研究してた時もいくら探してもなかったんだよな。ないもの探してもしょうがねえから後回しにしてた。こいつが研究続けてるかと思ってたけどマジで何もしてなかったのかよ、馬鹿じゃねえの。怪電波でも使ってたんだろって返事しておくか」
「なるほど」
「なるほど?」
今の会話になるほど、という要素などないので川口は聞き返す。
「川口、データを送ってあげましょう。私たちが解析しているあの歌です」
「おいおい。いくらなんでもばれるだろ」
「証明のしようがないのですから問題ありません」
これが偽物だ、などと。一体誰がわかるというのか。
「解析進めてたらワンフレーズ解析終わりましたし」
「マジで?」
「これはクジラのように、超音波で奏でるものです。どこから発信されているのかわかりませんが、海の中は複数種類の歌で溢れています」
「アトランティスも馬鹿にできないってことか。なるほどねえ。音だから文字がない、ってのは一応辻褄もあってるな」
もし、文明が本当は水の中にあったのだとしたら。それは電波を開発するはるか昔から、世界中の人は海を使って連絡を取り合っていたことになる。それは国単位で? 惑星単位で? 調べれば、火星で見つかった文明の痕跡も共通点があるかもしれない。
「案外本物かもな」
「その可能性は高いです」
「マジかよ。俺たちすごくないか」
「公表すればあなたは英雄です。あなたに選択肢を二つ提案します。一つは今までのことを明るみにして地上に帰る。もう一つはこれをまるっと相手に渡して、ここでスローライフを送る」
川口は少しだけ考える素振りをしたがすぐにうなずいた。
「後者で」
「そう言うと思いましたので、もう送る準備はしています」
「意外だな。前者をゴリ押すかと思った」
AIはいつだって「正しい」判断を勧めてくる。そこに感情はない。統計や傾向を計算するからだ。今回明らかに正しいのは前者のはずなのだが。
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