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翌日の放課後。
「曜くん。今日はクラスの子たちと、戸波駅前のカラオケに行くんだって。」
曜のいる西山高校の最寄り駅が戸波駅で、駅前に大きなボーリング場があり、そこでカラオケもできる。おそらくはそこに行くのだろう。
「ひとまず、戸波駅に行ってみようか。すぐにカラオケに入らずにいてくれると良いけど・・・。」
「うん。どうか寄り道してますように!」
電車の車内は下校する学生の姿がチラホラ。満員というほどではないが、空席はない状態だ。ドアの横に陣取る。
「美也子さ。もし、曜が浮気してるって分かったら、どうするつもり?」
「私の思い違いであって欲しくて・・・そこまで考えれてないの。」
肩くらいまで伸びている髪の両端を掴み、沈んだ表情で俯く。
「まぁ、曜が浮気するとは思えないけどね。」
「だと思いたい。」
(美也子の杞憂に終わればいいんだけどな。)
小さくため息をついた。
戸波駅の西口改札を出て、右に5分ほどのところにカラオケ店がある。
「まずは、タクドで腹ごしらえをしてないか確認しよう。」
「うん。」
駅前すぐの電気屋の中にあるファーストフード店へと向かう。
「けっこう混んでるよ。外からだと分かりにくいね。」
「だね。入ってみよう。」
店内はカウンター席が20席くらい。テーブル席は10席くらい。その内のいくつかはパーテーションで区切られている。その中をゆっくりと進んでいく。
「ん?美也子、どうした?」
徹の制服の背中を美也子が引っ張り、立ち止まった。
「あそこに曜くんがいる。」
美也子の視線の先には、曜がいた。座席には、同じ制服の女子が一人。他はいない。店内をグルっと見回し、レジのほうにも目を向けるが、同じ制服の人はいなかった。
「カラオケ。二人で行くのかな。」
徹の背中にある美也子の手は、少し震えていた。
「カラオケのところで集合して、何人かで行くのかもしれない。まだわかんないよ。」
「そうなのかな・・・。」
「そうだよ。」
しばらくして、曜たちは立ち上がり、カラオケの店へと向かう。それを少し離れた位置からついて行く。
店の前に着き、誰かと待ち合わせるでもなく、二人は店内へと入っていく。
美也子の表情は曇り、言葉数も減っていく。
「どうする?もう追いかけるのをやめる?」
徹は膝を少し曲げ、俯いたまま顔を上げようとしない美也子の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫。ほら。後から人が増えるのかもしれないし。」
美也子は胸の高さで指を重ね、今にも泣きそうな顔をしている。
その頭をポンと叩く。
「俺たちも入ろう。」
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