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カラオケの部屋は少ないため、すぐ横の部屋に入ることができた。
「歌う?」
「歌わない・・・。」
(だよな。)
他の部屋から漏れてくる音が聞こえてくる。
(お。この人の歌声いいな。)
徹は、そんなことを思っていたりした。
入室してから30分くらい経過したが、隣の部屋に人が入ったような気配はない。
「俺、様子見がてら外をグルっと回ってくるよ。」
「あ、うん。ありがとう。」
「一人にして大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
弱々しく微笑んだ美也子を部屋に残し、隣の部屋の様子を伺い、人が増えていないのを確認。店内のボーリング場やUFOキャッチャーの並んでるスペース、お手洗い、椅子だけがある休憩スペース。そのどこにも、西山高校の制服の人はいなかった。
(曜。まさかだよな?)
右手で頭をさすりながら、天を仰いだ。
「ただいま。」
「おかえり。・・・どうだった?」
「隣に人は増えてないし、店内に西山の生徒はいなかったよ。」
「それじゃ、曜くんは・・・。」
徹は大きく息を吐き、自分の手で美也子の両手を包む。
「誰もいなかったけど、曜の浮気だという証拠にはならないよ。俺が上手く話してやるから、一緒に曜に話を聞こう。な?」
美也子は堪えていた涙を流し、首を横に振る。
「曜くんを好きなのに、疑ってるなんて、曜くんに知られたくない。」
「でも、曜に聞かないことには、答えは出ないだろ?」
美也子は無言のまま首を振り続ける。
「曜くんが好きなのに・・・。」
「曜はさ。人との距離感が近いし、人に頼られやすい。だから、これも何か理由があるんだよ。大丈夫。」
徹は、泣きじゃくる美也子を抱きしめ、「よしよし」と、頭と背中をポンポンと叩いた。
(そんなこと思ってもいないのにな。)
徹は、唇を嚙みしめた。
しばらくして、美也子の震えていた肩が止まった。
「ちょっとは落ち着いた?」
「うん。大丈夫。」
徹は、美也子を包んでいた腕をほどく。
「いっぱい泣いちゃって、ごめんね。」
美也子は、ハンカチで涙を拭う。
「そろそろ退室時間だし、出ようか。」
「うん。」
少しふらつく美也子の手を引き、部屋を出る。
「ほんとにごめんね。」
「謝る必要はないよ。美也子が一人で泣かれてるほうが嫌だし。」
「ありがとう。一緒にいてくれて。」
美也子は目を赤くしたまま、精一杯の笑顔を浮かべる。
(もう限界。隠したままなんて無理だ。)
美也子の手を引いたまま、向き合う。
「あのさ。」
「なに?」
「えっと・・・。」
「どうしたの?」
(言ったら美也子がこまるよな。言っていいのか。)
徹が自問自答をしているそのとき。隣の部屋の扉が開き、曜が出てきた。
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