君が好きだった。

4/6
前へ
/6ページ
次へ
カラオケの部屋は少ないため、すぐ横の部屋に入ることができた。 「歌う?」 「歌わない・・・。」 (だよな。) 他の部屋から漏れてくる音が聞こえてくる。 (お。この人の歌声いいな。) 徹は、そんなことを思っていたりした。 入室してから30分くらい経過したが、隣の部屋に人が入ったような気配はない。 「俺、様子見がてら外をグルっと回ってくるよ。」 「あ、うん。ありがとう。」 「一人にして大丈夫?」 「大丈夫だよ。」 弱々しく微笑んだ美也子を部屋に残し、隣の部屋の様子を伺い、人が増えていないのを確認。店内のボーリング場やUFOキャッチャーの並んでるスペース、お手洗い、椅子だけがある休憩スペース。そのどこにも、西山高校の制服の人はいなかった。 (曜。まさかだよな?) 右手で頭をさすりながら、天を仰いだ。 「ただいま。」 「おかえり。・・・どうだった?」 「隣に人は増えてないし、店内に西山の生徒はいなかったよ。」 「それじゃ、曜くんは・・・。」 徹は大きく息を吐き、自分の手で美也子の両手を包む。 「誰もいなかったけど、曜の浮気だという証拠にはならないよ。俺が上手く話してやるから、一緒に曜に話を聞こう。な?」 美也子は堪えていた涙を流し、首を横に振る。 「曜くんを好きなのに、疑ってるなんて、曜くんに知られたくない。」 「でも、曜に聞かないことには、答えは出ないだろ?」 美也子は無言のまま首を振り続ける。 「曜くんが好きなのに・・・。」 「曜はさ。人との距離感が近いし、人に頼られやすい。だから、これも何か理由があるんだよ。大丈夫。」 徹は、泣きじゃくる美也子を抱きしめ、「よしよし」と、頭と背中をポンポンと叩いた。 (そんなこと思ってもいないのにな。) 徹は、唇を嚙みしめた。 しばらくして、美也子の震えていた肩が止まった。 「ちょっとは落ち着いた?」 「うん。大丈夫。」 徹は、美也子を包んでいた腕をほどく。 「いっぱい泣いちゃって、ごめんね。」 美也子は、ハンカチで涙を拭う。 「そろそろ退室時間だし、出ようか。」 「うん。」 少しふらつく美也子の手を引き、部屋を出る。 「ほんとにごめんね。」 「謝る必要はないよ。美也子が一人で泣かれてるほうが嫌だし。」 「ありがとう。一緒にいてくれて。」 美也子は目を赤くしたまま、精一杯の笑顔を浮かべる。 (もう限界。隠したままなんて無理だ。) 美也子の手を引いたまま、向き合う。 「あのさ。」 「なに?」 「えっと・・・。」 「どうしたの?」 (言ったら美也子がこまるよな。言っていいのか。) 徹が自問自答をしているそのとき。隣の部屋の扉が開き、曜が出てきた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加