エピソード11.不安

4/4
3455人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
部屋のチャイムが鳴ったのは、電話を切ってから30分後。 ドアを開けたら、外の空気をまとった桐谷に抱きしめられた。 「ごめん!あの日、携帯を会社に忘れて連絡できなくて…残業して遅くなったし、部屋にも行けなくて…」 「…うん」 「急に決まった出張も朝早くて、会社に取りに戻った携帯も…途中で水没させて使えなくなって…」 桐谷はポケットからケータイを出して電源を入れて見せた…けど、確かにウンともスンとも言わない。 「笹井に適当なこと言って花梨ちゃんのケータイ番号を聞いて、それで楓さんに連絡できた」 「…ユカちゃん?」 笹井…ユカちゃん? ユカちゃんは、どの時点でいたんだ? 「うん。あいつなら同期だから、花梨ちゃんのケータイ知ってると思って」 なんかモヤるけど…すぐに聞けない…。 「…それで出張中、連絡くれなかったんだ?」 「ごめん…!隣に住んでるからいつでも会えると思って油断してた…!」 「…ちょ、桐谷…苦しいよ…」 力任せに抱きしめられて…窒息する…! 「焦った…誰も出ないし、ベランダから無理やり覗き込んだら、家具とか無くなってるし…!」 荷物を運び出してる音、爆睡してて気づかなかったみたいだ。 「あの部屋、引き払うことになって。私もそれを桐谷に伝えたかったんだけど連絡ないし、私からもしずらいから、放っておいちゃった」 桐谷がふと力を緩めて、私の顔をマジマジと見つめた。 「俺…フラれるの…?」 そんな捨てられそうな犬みたいな目で見ないでよ…! 「違うよ…」 桐谷は膝から崩れ落ちるみたいに「よかった…!」と言って、私にすがり付いた。 「じゃあ…急に引き払ったのはなんで?」 「桐谷とルカさんが会ってるの見て、実家に帰った時、隣に住んでるのは辛いなぁって思ったから解約したの。でも付き合うようになったからその必要なくなったんたけど、解約したことずっと忘れてて、その日が来ちゃったというわけ」 「え?…ということはなに?あの部屋には戻らないの?」 「まぁ…そうなる」 桐谷はあー…と言いながら上を向いて、少し考えて言った。 「だったら、俺の部屋に来てよ」 私の髪を撫でながら「一緒に暮らそう」って甘い声で言うけど…。 …男嫌いの私が、男と暮らすって…アリなのか…?
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!