エピソード6.大好き

3/12
前へ
/105ページ
次へ
私は手を上げてスタッフに合図した。 「すいません!お手拭きもらえますか?」 私の気迫に慌ててお手拭きを持ってきてくれたスタッフにお礼を言って、ビニールの袋を開けて先輩に差し出す。 「ほらっ!私のこと好きだとかほざくんだったら、そんなに口の周りを汚したままにしないでくださいっ」 先輩は「ありがと…」と小さく言いながらお手拭きを受けとると、鞄から小さな手鏡を取り出して、そっと口の周りを拭いた。 …すると2皿目のペペロンチーノが運ばれてきた。 どうせまた汚すに決まっている…と思った私は、スタッフにおしぼりの追加を頼んでおいた。 先輩は口の周りをきれいにしたあと、また鞄の中を探って、小さな巾着袋から、リップクリームを取り出して塗り始めた…。 いやいや…。 どうせまた汚すじゃん。 リップは最後でいいじゃん。 …てか、私を好きだって告白してその余裕はなんだ? 好きな人の前でパスタ2人前食べて、それを眺めさせてるって、ちょっと変じゃないか? ズボズボ…っとパスタをすする音を5回ほどさせて、畑中先輩は「はぁ…おいしかった…!」と満足げに手を合わせた。 「…お腹いっぱいになって良かったです…!ほらまた…口の周りに鷹の爪がくっついてますよ?」 えーホントにぃ…と言いながら、また鞄を開けて、鏡をさがそうとするので… 「もうっ!ちょっと失礼しますね!」 まどろっこしくてイライラして、私がお手拭きで先輩の口元をゴシゴシぬぐってやった。 「ありがと…!じゃ、デザートも頼もう」 と呑気に言った先輩が、私にも同じデザートの盛り合わせを頼んでくれた。 運ばれてきたデザートはおいしいよ。 おいしいけど、この謎の時間はなんだ? 「先輩あの…気持ちは嬉しいんですけど、私は今男嫌い発令中ですので、その…お気持ちには…」 はっきり断るだけはしておかないと、後々面倒なことになると、思ってそう言ったのに。 「え?僕、森山ちゃんのことなんて、好きでもなんでもないよ?」 ケロッとした顔で言われて。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4662人が本棚に入れています
本棚に追加