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南第一中学校三年教室。
教室に入るなり、級友の橋本がニヤニヤしなが近づいてきた。まぁ、こちらから切り出す義理は無い訳で。
机の鞄掛けに、リュックを引っ掛けて言う。
「なんだよ。橋本…。」
いやいや、分かっているくせに。とでも言いたげな表情だ。
「朝のアレ引っかかっただろ。」
まったく。何を根拠に……。
すると、「いや、あれは無いだろ。」、「さすがに無い。」「乙です。」グループ内の仲間の佐藤、田中、小林が割って入ってきた。
僕も「引っかからんだろ。」と便乗する。
「まじかー。絶対、一人は引っかかると思ったのになぁ。特に恭太郎とか。」
失礼なヤツだな。だから根拠を出せ。
「でも、祭りは楽しまないと。」橋本は屈託ない笑顔でニカッと笑った。
これを祭りと表現するか…。
「まぁ、楽しむってのには賛成だな。」
___。
「突然なんだが俺今日、長内 美香に告白する。」
え、は、お、んん?
皆、気持ちの良いリアクションをしてくれる。橋本なんて、口に咥えていたパンをポロッと落として見せた。
何でまた急に…、と橋本が軽く咳き込みながら言った。
他の3人は、「まぁ、良くあるやつね」「逃げか」「これは、逃げだね」と痛い所を突いてくる。
……そう。これは逃げだ。
エイプリルフールに告白するなんて冗談めいている。最悪失敗に終わっても、誤魔化しが効くんじゃないかとどこか保険を掛けているのは認める。
しかしこうでもしなきゃ、俺はたぶん告白なんて出来る気がしない。
「…俺も、祭りに参加したいと思ってな。」朝の橋本の言葉を借りる事にした。
「祭り?どこかで祭りでもあるのか?」
何故ピンときていないんだ…。
___。
放課後の教室。
俺は、長内美香を呼び出す事に無事成功していた。
思い返せばアレはもう一目惚れだったと思うしかない。
中学校に入ってすぐに気になり出してからは、クラスは違えど学年行事では何かと一緒になる事が多かった。運なのか運命なのか、好きになるのにさほど時間は掛からなかった。
「どうしたの、鈴木君?」
鈴木? 誰だよ、そんな何処にでもいそうな名字のヤツは……、いやいや僕だろ。鈴木恭太郎。しっかりするんだ。
「あ、いや、長内さん。」
目線を下げると視線が交わる。あっ、可愛い。
ヤバい、何言うんだっけ。毎日朝食を作って?いやいや違う。何か言わないと…。
「今日はいい天気だね。」
今朝の晴天は何処へやら、町岡市の空は現在曇天真っ只中。
「え? うん。いい天気だったね。」とニコッと笑う。
うん。可愛い。
でもヤバい緊張する。世の中のカップルは皆この緊張を乗り越えたのかと思うと尊敬する。
「好きだ。」
「え?」
くっ、お決まりの聞き返しかよ。何故一回で聴き取ってくれない。
「好きです。長内さん俺と付き合って欲しい。」
………。
暫くの沈黙。
これは、いつまで待てば良いのだ?
………。
ダメだ。もうムリ…。
「へへ、今日はエイ___。」
「私も好きっ!」
僕の声は、かき消された。
「え?」
あっ。聞き返しちゃった…。
「私も鈴木君の事ずっと好きだった。小学校からずっと…。」
まじか。
眼の前の景色が変わるなんて例えがあるがこれがそうなのか?
まぁたしかに、曇天な灰色から綺麗な薔薇色にはなったが。
僕の意を決した告白は呆気なく成就した。
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