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疑念
生まれて始めて彼女が出来た。
しかも、苦節三年間。正確には二年と少し、片想いをしていた相手と恋人になれたのだ。これが浮かれずにはいられないのだ。
一夜明けて早速、橋本らにこの大成功を伝えた。
「まじか。」
「うそ。」
「先越されたーー!」
佐藤、田中、小林は心底悔しそうに唸ったが最後には、「Congratulation 恭太郎。」と拍手をしてくれた。
橋本に至っては、余程悔しいのか最初に「良かったね。」と一言、拍手には参加してくれなかった。
____。
放課後。クラスの違う長内さんが来るのを待って二人で下校した。
まさか、この僕が恋人と一緒に下校する日が来るなんて夢にも思わなかった。
他愛もない会話だったが、彼女との時間はいつもあっという間に過ぎてしまう。自然と歩幅は小さくなる。
____。
昼休み。
弁当を持参する者、購買で買う者それぞれ自由だ。
いつも購買で惣菜パンをいくつか買って教室で仲間と食べているが今日は違う。
長内さんと、中庭で一緒に食べる約束をしているのだ。
はぁ。幸せ過ぎて溜め息が出るよ。
「長内さんってお弁当なんだね。」
「へへへ。」少し照れくさそうに笑う。
「長内さんが作ってるの?」
「うん。そうだよ。」「うち、お母さんしか居ないからあまり迷惑かけたくなくて…。」と今度は少し申し訳なさそうに言った。
「あっ。そうなんだ。なんかごめんね。辛い事聞いちゃって…。」
長内さんは、頭を振って「全然良いよ、気にしないで。ただ、鈴木君には知っておいて欲しかったから。」とまた笑って見せた。
………。お父さん、長内さんは僕がきっと幸せにします。と、本日は快晴な町岡市の空に僕は何かを誓ったのだ。
___。
告白の日から、数日が経った。
長内さんとの時間は増えたが、基本僕は変わらず橋本たちと過ごしている。
最近、橋本の様子が少しおかしい。
なんというか……。とにかくおかしいのだ。
僕が長内さんと付き合い出してから、何かおかしい。最近は自分の事で手いっぱいだったが、今思うとやはり変だ。
放課後、長内さんには先に帰ってもらい、僕は橋本と教室に居残っていた。
「橋本、お前最近なんか変じゃないか?俺に何か、言いたい事でもあるのか?」
昔からの親友だ。変な小細工は無しで聞く。
橋本は眉を寄せただけで何も言わない。言いたそうだが、何か躊躇っている様に見えた。
「頼む、何かあるなら言ってくれ。俺達、親友だろ。」
「…わかったよ、恭太郎。なら言わせてもらう。水を差す様だが言わせてもらうよ。改めて、長内さんとカップル成立おめでとう。」
「あ、ありがとう。」
「恭太郎は、何て言ってOKをもらったのかもう一度教えてくれないかい?」
何だよ。そんな事なら何度でも言ってやるさ。
「私も好き。小学生の時からずっと…。だけど?」
ヤバい、また顔がニヤけてしまったかもしれん。
「うん。昔からお互い実は好き同士。とても美しい。美談だ。」
そうだとも。
「僕と恭太郎は親友だよな?」
「ああ。おれは昔からそう思ってる。」
「昔っていつから?」
「そりゃあ、俺達は小学校から一緒だ。それ以来ずっとだろ。」馬鹿野郎、言わせんなっ。
「うん。僕たちは、小学校から一緒だ。……でも長内さんは?」
え?
「あ。」
すごい間抜けな声が、意図せずに口から出た。
「そうだよ。長内さんとは中学校から一緒で、小学校は違うんだよ。」
あ。
「小学校の頃に、恭太郎は長内さんと面識はあるの?」
「……無い。」
無い。無いじゃん。
「じゃあ、何で…。長内さんはそんな事を…。」
頭を左右に降ると「それは、僕にも分からない。でも……。」その先を橋本は言わなかった。
ただ、僕の事が心配で素直に喜べ無かったとだけ。
____。
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