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初めてのキスは
きっとこれは天罰だ。
告白をあの日に選んだ僕への。
失敗した時の保険…。最悪、これは冗談だだったと逃げてしまおうとした自分の不誠実さが招いたものだ。
長内さんは、きっとそれを見抜いてあんな事を言ったんだ。
僕の不誠実に不誠実で応えて見せたんだ。
頭が真っ白になった。
___。
「鈴木君っ。おはよ。」
あっ。可愛い……。じゃない。
「おはよう、長内さん。」
彼女は変わらずの笑顔で、僕に話しかけてくれた。
毎日の下校も僕が彼女を待ち、彼女が僕を待つ、付き合いだした時と変わらない態度で接してくれる。
そうしていると、橋本が言ってたアレは何かの間違いで、僕の気にし過ぎだったんじゃないかと思えてきた。
何も聞けないまま、僕は今日も長内さんの横を歩く。
___。
休日のデートの約束をした。流行りの恋愛映画を見に行こうという話になったのだ。
これは、テンションが上がる。
休日に会うのは初めてだし、なんかこう、恋人らしい。ドキドキしてなかなか眠れない。
眠りに落ちたのはたぶん深夜2時半を回ったあたりだと思う。
「鈴木君に話があるの。」いつもの笑顔とは違う何かを含んだ様な笑みだ。
「実は、鈴木君を好きって言ったのは嘘。だってあの日は、エイプリルフールだったでしょ。鈴木君も真剣に告白してきた訳じゃないって知ってるから。」
「じぁ、さようなら。」
「待って、僕はそんなつもりじゃっ……!」
バサッ。僕は何かを掴む様に飛び起きた。
………夢か。
……最悪だよ。こんな夢。
デート当日は憎いくらいの快晴で寝不足の僕には少し日差しが強く感じた。
「あっ。鈴木くーん。」
長内さんだ。
え?やだ。
私服の長内さん、めっちゃ可愛い。
___。
映画デートは、控えめに言って最高だった。
長内さんとの初映画もそうだが、映画そのものがとても面白かった。特に、波乱万丈からのラストのキスシーンなんて危なく泣いてしまいそうになった。
僕もいつかは長内さんと……。
隣で歩く彼女は、目を合わせるといつもニコッと笑ってくれる。僕の不安なんて気のせいだと。そう言われている様に思えた。
「ラストのキスシーン良かったね。」
「うん。私すごい感動しちゃって…。」
彼女の目元は少し赤く腫れていた。
「長内さん……は、キスした…事ある?」
あっ。ヤバい勢いて聞いてしまった。でも、このままあのラストシーンの様なキスへ……。
「う、うん。ある。」
ファーーーー。
いや、待て。どうせ、小さい頃にパパとなんてオチに決まっている。
「そ、それは、好きな人と?お父さんとか?」
この詮索の仕方は自分で言っていて、少し気持ち悪い気がした。
「違うよ。好きな人とだよー。」
「へ、へぇ。ふぅーん。そうなんだ。」
この会話は着地地点を既に失ってしまった。
「昔ね。小学生の時に、溺れた私を助けてくれた人と。彼は命の恩人なの……。」
___。
あまり最後の方の会話を覚えていない。どこをどう通って家に着いたのか記憶が曖昧だ。
まぁ、控えめに言ってかなりショックだった。
既に、長内さんの初キスはどこかの誰かに奪われた後だったんだから…。
く、悔しい…。
本当なら、今日僕が長内さんと。
でも。そういえば、その長内さんから初キスを奪った男は、命の恩人と言ってたな。
なら……、許すしかないか…。
長内さんが生きてくれている方がずっと大事だ。
ありがとう、名前の知らない彼。そしてさようなら、初キス。
………。
いや待てよ。そういえば僕も同年代の異性と唇を合わせた事があったな。今思えば、あれが僕の初キスだったじゃないか。
命の恩人か……。
命の恩人?
僕は自室を飛び出すとリビングへ駆け下りた。
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