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真実へ
僕が彼女を好きな事に変わり無い。
未だに、「今までの事は嘘でした。」なんて夢をたまに見るが仕方がない。
告白をあの日に選んだのは僕なんだから。
でも、長内さんのあの言葉の意味を知る機会は来るのだろうか…「小学生から……」。
___。
長内さんの初キスの相手が僕では無いと否定されたところで、日は昇りまた日は暮れる。変わった事と言えば、僕の気力が一つ無くなったくらいだろう。
まったく情けないったらない。
付き合いたいから、今では彼女を独占したいと思ってしまう。ここ数日、彼女の初キスを奪った当時の想い人が頭の隅から離れない。
何をしていても、油断するとソイツが現れる。
分かっている…。これは、ただの嫉妬だ。
過去に嫉妬しても仕方がないのに…。どうしても頭から離れてくれないんだ。
___。
プルル。プルルル。
それは、登録の無い知らない番号からの着信だった。
「はい。」
「……あっ出た。」同年代くらいの女性の声だった。
出たとは失礼な。掛けて来たのはソッチだろうに。
「鈴木恭太郎君だよね?ちょっと話があるんだけど。」
何だよ、藪からスティックに…。
「どうぞ。」
「いや、直接話たいから今から駅前の喫茶店まで来て。もちろん、レディからお誘いを断らないわよね。」
レディは、そんな頼み方はしない…。
____。
「初めまして、須藤 佳苗って言います。」
はて、須藤?そんな子同級生にいたかな…。
「どうも…。で、何の様ですか?」
「アナタの彼女……、長内美香の親友よ。小学生からの。」
なんとっ。
「へぇ。その親友さんがどんな御用で?」
彼女は一つ咳払いして目をギラつかせる。
ひぇっ。
「美香から聞いたのよ。最近、彼氏が元気無いって。」
ああ。
「本当は、私の事好きじゃないのかも…」とか「私に飽きちゃったのかな」ってね。
「そ、そんな訳ないっ!」僕は語気を強めて否定する。
「じゃあ!…じぁなんで、4月1日なんかに告白なんてしてんのよっ!」
彼女の言葉に何も返す事が出来ない。
「そ…それは…。」
僕は…本当に無神経だ。自分の事しか考えていなかった。
彼女だって不安だったんじゃ無いのか…。
「声を荒げてしまってごめんなさい。鈴木君ならもう聞いていると思うけど…。」
なんだ?
「美香のお父さんの事…。やっとあの子、昔みたいに笑えるようになったのに…。」
ああ。そうだ。
僕は誓ったじゃないか。
今は亡きお父さんに…彼女を幸せにするって。
「うん…聞いてる。亡くなったお父さんの分まで僕が……。」
「え?」
え?
「美香のお父さん、亡くなってなんか居ないわよ。」
どくんっ、心臓が跳ねた。
「美香のお父さんは……、いや両親は6年生の時に離婚したじゃない。」
____。
僕は走った。
須藤さんには、「急用が出来た」とだけ告げ僕は喫茶店を飛び出した。
そして走った。とにかく走った。
いくら走っても不思議と疲れない。こんな現象は、今までも…きっとこれからの人生も無いと思う。
彼女のところへ走れ自分。
____。
僕は倒れ込む様に彼女の住む団地に辿り着いた。
足が震える。
思い出した様に呼吸が荒くなった。
でも、彼女の家の玄関前に立つと無意識に前髪を直した。こんな時でさえ、彼女にカッコよく思われたいなんてなんか笑えてくる。
僕はインターホンを押した。
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