1.遊技機軍団編⑥博打の魔力

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 その程度ならまだ良かったが、喜美候部から金を借りてまでヤミスロをして借金は200万円を超え、喜美候部もこれ以上は貸せる金がないというほど朽ち果てる寸前までこの身焦がしていた。    悪魔の蜜、その味をひとたび知れば、もう後戻りできない。地獄へ一直線。    借金をしてまでその味を求める。これが、そう、    ギャンブル依存症。    ――ギャンブルの本質は負けにある。    負けがこむからまた取り返そうと向かう。    そうだと気づいた時には、大学も中退した後で、金も友人も残っていなかった。    堕ちた。賭博の奈落から這い上がれない。    パチンコでちまちま稼いだところで、喜美候部からの借金は返せない。せめて、あと30万、いや10万円でいい。    10万円あれば200万くらい勝つことだってヤミスロのレートなら一晩で取り返すことだって可能だ。    そう思った俺はサラシナに連絡した。   「金に困ってる。貸してくれないか?」    今思えば、どうかしていた。    これがギャンブル依存症の行きつく先か。    昔俺の世話をしていた女に急に連絡したかと思えば、金を貸してほしいと泣きつく始末。    誰がどう見ても、クズそのものだ。    そして、さらにおかしなことに、サラシナは貸してあげると言い、俺の家の近くの喫茶店で待ち合わせすることになったのだった。    世の中どうかしてる――。   「大学やめたんだって?」    サラシナは抹茶にほわほわのホイップが乗った可愛らしい飲み物を一口飲んだ。可愛いな、なんてほんの一瞬浮かれていたが、俺が考えるのはもっぱらその飲み物はいくらするんだろう。そんな金のことばかりを心配して、ポケットの中に入っている千円札の感触を確かめては怯えていた。   「あ、ああ、まあ」    店内からガラス張りの壁面の向こう側へ視点を向けると、人が行き交っていた。仕事に向かう人、遊びに出かける人。あるいは大切な人を失い、市役所に死亡届を提出する人かもしれない。   「いいよ。だいたい知ってる。加賀式って人とパチプロ集団になって学校やめたらしいってことくらい」   「……」   「そんなんじゃダメ。オミオミ君がもっとダメになる。このお金何に使うの?」    天使は俺を聖なるルートに引き戻そうと叱ってくれているのだろうが、そんな言葉……俺の心に響かない。   「それは……生活費、とか」   「とか?」   「……」   「またパチンコか何かでしょ」    真っ先に嘘を見破られるが、もうどうだっていい。   「……ああ、そうだよ。でもな、増やしたらすぐ返すから」   「勝てるわけないじゃん」   「勝てるんだよ! 俺なら」    それからパチプロとして、どのように勝つか。論理的に確率論の話しをしたが、彼女はまるで興味のないような顔で聞き流しているだけだった。    その表情に余計腹が立って、「俺はわからないならいい!」と、金を貸し渋るサラシナに強く言い放った。   「そうじゃなくて。オミオミ君はどうなりたいの?」   「どう……って……」    俺がなりたいもの、そんなのわからない。ただ、賭博に身を焦がすだけの毎日は違う気がする。それに金がなくて生活に困るのはみじめだ。  どうなりたくないか、だけはよくわかっていた。   「わかった。私が助けてあげるから待ってて。とりあえず、今日はこの10万円貸してあげるから、ね」    癇癪(かんしゃく)を起こす俺を見かねて、さながらDV彼氏の恐怖におののき金を差し出すようなサラシナ。  
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