0.博徒の成れの果て

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0.博徒の成れの果て

『もはや無意識に近い衝動。悪魔の蜜に飢え、賭博に生かされていると悟ったときにはもう奈落。脳の指令に抗うことを許さず、甘い悪魔の蜜を求め、衝動へ隷属する。  即ち賭博中毒者。  一時の多幸感がまやかしだと知りつつ、真っ逆さまに地獄の穴へと落下する。堕ちていく醜い自分の姿を鏡に映されてなお、悪魔の蜜を遠ざけること敵わない。  賭けられるものは全て賭ける。金、物、人、心。そして求められれば命までも。  命を賭けるまで至れば等価交換は望めない。分が悪かろうが、一滴の悪魔の蜜欲しさに己の心臓を引きちぎり、手のひらの上で血にまみれた余命がうごめく。それも博打の鼓動の中では脳内ホルモンに支配され、成り果てた末にようやく己の心臓の価値を知る。  底から見上げると、落ちてきた大きな穴は、針で開けたような小さな丸にしか見えない。そこから細く光が差し込むが、光源は天井の彼方。一生手の届かない光だと感づき、もう諦めた。成れの果てが生身で空を飛ぶことは不可能。こんな狂った世の中に救いはない――』
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