嘘と祈り

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「どうしてママが死んだなんて嘘をつくんだ! ママはあんなに頑張ってるのに……」 叱られた子供はタブレット端末を差し出した。 なぜ怒られているのかわからない、というような憮然とした表情の子供。 父子の険悪な雰囲気と裏腹に、画面にはポップな字体が躍る。 エイプリルフールのなぞ! 確かに今日は四月一日だ。 だからといって、ついていいウソと悪いウソがある。 入院中の妻の見舞いに出かけようという今この状況。 いくら幼いとはいえ、我が子の悪質な嘘を受け入れるなど不可能だった。 怒りと悲しみを抑えながら表示されている文章を流し読みした父親は、息を詰まらせた。 こらえきれずに涙があふれる。 「エイプリルフールについた嘘は一年間実現しない」 余命三か月の意味を、子供がどのくらい理解しているのかは分からない。 父は子を抱きしめた。 嗚咽をこらえるのに必死で、それ以上に何の言葉も出てこなかった。
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