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本棚に追加「暁斗さま。一体、何が――」
「――この、悪鬼が!」
暁斗に駆け寄ろうとした瞬間、罵声が割り込んできた。暁斗を追うようによろよろと屋敷から出てきたのは、腹から血を流すひとりの男――叔父の清秋だった。
悪鬼と叫びながらも、清秋の視線は私ではなく、暁斗に向けられていた。かと思えば、数秒遅れて清秋は私の存在に気がついたらしく、震える指を突きつけてくる。
「お前……止水。そうか。神様がご乱心なされたのは、お前のせいか!」
腹の傷を押さえながら、死相の浮かんだ顔で清秋は喚く。
「お前は牢から出るべきではなかった。お前が神様を狂わせた。お前が村に禍をもたらした……! 止水、お前が!」
「止水、大丈夫? 火傷してる」
清秋には目もくれず、暁斗は真っ直ぐに私へ近付いてきた。炎に炙られた頬に手で触れたかと思うと、暁斗は顔を傾け、いつものように口付けてくる。
身体的な接触を会した方が、暁斗の力は強く働く。陰の気が強い私を癒すためには、肌を触れ合わせる必要があった。それは分かるが、二人きりのときならばともかく、人目がある場所で触れ合いを持つことは初めてだ。
見せつけるように舌まで絡ませられて、目を見張る。けれど、暁斗に気にする様子はなかった。
逆に清秋は、劇的な拒否反応を示した。
「おぞましい! ……神様! あなたはご自分が何をなさっているのか、理解しておられるのですか! 信者たちに村を焼かせただけでは飽き足らず……なぜそんな、そんなことを――!」
私にはもう、目を白黒させることしかできなかった。
村を焼かせた? 暁斗が? なぜ?
動揺して視線を落とすと、血を滴らせる包丁が目に入った。包丁を握る暁斗の手は、真っ赤に染まっていた。
清秋を刺したのは、暁斗なのだ。悟った瞬間、絶句する。
「付き人をどうしようが、俺の勝手だ。口を出される謂れはない」
「しかし、それは……!」
言葉を濁した清秋を嘲笑うように、暁斗は強く私の腰を抱く。清秋はもう、ほとんど泡を吹く寸前だった。
「分かっておられるのですか! その男は、あなたの実の兄なのですよ!」
息を呑む。
弟が生まれたのは私が八歳の時で、暁斗の年は、私より八つ下だ。計算は合う。
思わず隣を見たけれど、暁斗には驚いている様子すらなかった。目が合っても、暁斗はその美しい双眸を細めるだけで、動揺ひとつ瞳に浮かべない。
事実なのか。
事実ならば、暁斗はいつから知っていたのか。
「……御力を制御できるようになったのは、そのせいですか。あなたのそばでも唯一中毒にならずに動けるからと、その男を牢から出したのが間違いだった。近づけすぎた……! あなたは……あなたという方は、血の繋がった兄と、何ということを! おぞましい!」
「その俺の兄に――たったひとりの俺の家族に、お前たちは何をしてきた?」
聞いているこちらが身震いするほど冷たい声音で、暁斗は問いかけた。
「便所。生贄。性奴隷。口に出すのもおぞましい言葉を、お前が送り込んだ女がぺらぺらと吐いていた」
その言葉に、一気に血の気が引いていく。
村を焼いたのが暁斗だということより、私たちが血の繋がった兄弟なのだという事実より、暁斗に己の汚らしさを知られてしまったことの方が、よほど私にとっては身に堪えた。冷たくなった私の腕を、暁斗は宥めるように優しくさする。
「大丈夫だよ、止水。何も心配しなくていい」
場違いなほど穏やかな微笑みは、いつもと変わらず美しい。けれどその美しさは、私には割れる寸前の薄氷のようにしか見えなかった。

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