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8、落花生
「カケルに珠を割られた。もう、この衣はいい所2ヶ月しか持たない。イチキ、我を病院に連れて行け。頭に傷を負うた。我は潜在意識に入る。」
イチキはビックリが立て続けだ。
「女王?いたんですか?消えたのかと思ってましたよ!」
「我は陽に支配されていた。陽は「何をしても生きる」という強い意志を持っていた。来降の儀、珠を掛けられるまでは我が主導権を握っていた。我は「衣の調じ」で失敗したのだ。
陽の「気」は小さい。乗っ取りになってしまったのに気が付かなかったのだ。
珠で我が縛られたら陽は前面に出た。我の気を奪い、身体を成長させて来たのだ。でも、この身体は流れてしまう「宿命の衣」だった。もう、限界に来ている。それでも陽は生きるつもりだ。
それはいいのだ。出来るだけ手を貸してきた。陽は強い。
『気』というものが、心そのものが強い。我を前面に出さず乗り切ろうとしていたが、それはもう無理だ。珠を割られた。
それは、この衣の期限が確定したということだ。なるべく長く生きられるように我は潜在意識に入る。」
「じゃあ、召し上げたらいいじゃないですか!」
「同じ衣の中でできると思うか?できないのだ!
我が罪のない娘を殺す。結果的にはそうなってしまう。でも、せめて1日でも長く生かしてやりたい。我は陽の気持ちを全部知っている。
兎に角、こうして我が前面に出ることだけで消耗になる。意識下に入る。これまでと同様にな。イチキ、陽を病院に連れて行ってやれ!」
一木はスマホで近くの外科を探した。
頭の中は「陽の身体が使えなくなったら、2人とも外に出る。その時に召し上げて貰えば大丈夫だと自分に言い聞かせていた。
陽の意識はすぐに戻った。
「一木さん。わたくし、トンデモない光景を見てしまったわ。翔太君と実果さんがね。いたしていらっしゃったのよ。何をとは訊かないでね。お二人とも高校生でしょ?あれはどうかと思うの。お父様から、翔太君の親御さんにお伝えした方がいいと思うの。翔太君が逆ギレして石を投げて来たのよ。2つ当たってしまったわ。」
一木は運転しながら、陽の話の内容にギョッとした。
平然とそれを言う子供にしか見えない15歳の陽に一木は驚いたのだ。
「わたくし、周りの皆様から影で“市松人形“って言われているでしょう?頭が切れて流血中の今はホラーね。ご期待に応えて皆様にご披露したいくらいだわ。」
「お嬢さん、もうすぐ病院に着きますから黙っていてください。」
陽は、病院で頭を3針縫われた。一木は「護り珠」も確認した。1番大きな玉にヒビが入っていた。
一木は陽に「水川に戻ります。」と伝えた。
「私が話します。これは立派な傷害です。場合によっては警察沙汰ですよ。」
「そこまで大騒ぎにするようなことなのかしら。わたくしは、翔太君や相手の女性のような方達とは関わり合いを持ちたくないんですの。」
「これは、お嬢さんの気持ちの問題より、筋を通さなければならない事です。お嬢さんは未成年です。そして怪我をさせられた。翔太君は18歳になっている成人の加害者です。」
「一木さんがそう仰るなら、それが正しいんでしょうね。分かりました。」
田中家の母家に頭に包帯を巻いた陽と一木が現れて文恵は只事ではないと一瞬で理解した。
2人を本間で待たせて本殿にいる海斗を呼びに行った。2人が母家にやって来ると一木が淡々と陽が怪我を負った経緯を話した。
海斗は怒りで目の前が真っ赤になった。やっぱり、翔太はアイツだ!あの実果も同類だ!
文恵は、自分の子がそんなことをしたのかと涙が溢れた。「すみません。」しか言えなかった。
「すみませんが、お嬢さんを少しの時間ここで預かってください。私は晃さんと話すことがありますので。」と言って一木が立ち上がった。
イチキは、ヒヒカリに女王の話を伝えなければならないと考えていた。
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