8、落花生

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イチキは、蔵の戸を叩いた。「イチキです。トンデモないことが起こっていました。」 ヒヒカリは戸を開けると「中に入れ。」と言った。蔵の中には500年分の記録が詰まっていた。 「高天原文字」で記された歴代の田中家の当主が綴ってきた日記だ。それに「大球」が入った箱。4畳半の空間は2人が入ると息苦しいくらいだった。 「何があった?」とヒヒカリは訊いて来た。 「女王は、ずっと居たのです。(よう)の中に。 (よう)という『衣』は元々、生まれることなく流れる定めでした。女王はそれを使う決断をした。上手くいったと女王も含めて私も思い込んでいたのです。ところが、調じの段階で先に(よう)が流れる身体に宿った。ほぼ同時だったのかも知れません。兎に角、結果的には『乗っ取り』になってしまいました。 来降(らいがう)の日に珠をかけられた途端、(よう)が『衣』の主導権を握ったと女王は言っていました。 小さい気なのにすごく強い生存欲求を持っていたのです。(よう)は。逆に女王の気を奪って主導権をとりながら此処まで成長したということです。 女王は何故か主導権を奪い返しはしなかったようです。 珠をカケルに割られました。(よう)という『衣』の期限は後2ヶ月。1日でも長く生きさせてやりたいと女王は(よう)の潜在意識に入ってしまいました。(よう)はどうなるのですか?」 ヒヒカリはしばらく考えていた。 「恐らく、後2ヶ月は本当だと思う。イチキが指揮官の『捕縛』は2ヶ月待て。女王が出てくる。一発で仕留める気だろう。アイとホダカの珠を切るのは2ヶ月先だ。(よう)はどうにもならない。1日でも長く生きさせるのが女王の最優先になっている。今まで持った事が不思議なくらいだ。」 「じゃあ、(よう)は2ヶ月後に召し上げてくださるおつもりなんですよね?」 「同じ衣の中ではできない。普通なら2ヶ月後に召し上げる。女王が1日でも長くと言っていたなら、多分、それはできないからだ。『小さい気』と言ったな。それは『召し上げにも耐えられない』という意味だと思う。本当に小さいんだろう。」 「じゃあ、(よう)はどうなるのです?」 「気の欠片(かけら)になって崩れる。そしてバラバラになり再構成される。」 「そんな。。。」イチキは溢れる涙を止められなかった。 「愚か者。こんなことぐらいで泣くな。女王はいつも何かを狙っている。博打うちだからな。相当長い時間潜っているから考えがある。自分の(あるじ)を信じろ。お前は一木拓也(いちきたくや)を演じ切るんだ。その日まで2ヶ月間、(よう)が幸せに生きられるようにするんだ。それも女王の命令だ。」 イチキは涙を拭いて泣くのをやめた。 そして、ヒヒカリに自分が知らなかった事を一つ尋ねた。 イチキは、自分の知識量は高天原一と自負していたが、「龍の島国」では違っていた。知らないことばかりだった。 前はプライドが邪魔をして他者に質問などできなかった。 それが、この出向で楽になった。知らないことは知らないと言えるようになった。 「教えてください。」と頼めるようになっていた。 一木は30分ほどで母家に戻った。 (よう)は、ニコニコして海斗と文恵に話していた。 「戻りました。」と言って本間に上がり込むと、海斗が「じいちゃん、大丈夫でしたか?最近、蔵に篭もりきりなんですよ。認知が心配で。」と言った。 カイトも良くこのキツイお役目に耐えているなとイチキは思った。そして、文恵を見てヒヒカリもカイトも女王も「文恵とウリ」をどうするつもりなんだろうと思った。 「大丈夫ですよ。晃さんはお元気です。世間話を少しして来ました。。」
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