3人が本棚に入れています
本棚に追加
翔太が帰るなり、海斗は翔太を殴りつけた。
陽と一木は既に帰宅していた。
「お前は……お前は……陽さんに石を投げつけて怪我をさせただろう!」
翔太は平然としていた。
「ああ……陽だったのか。子供が覗き見してたから石を投げただけだよ。当たっちゃったんだ。それだけだよ。」
「お前は……あの女とそういう関係だったのか!2人とも高校生じゃないか!」
「お父さん、それが何?当たり前でしょ。付き合うってそういう事でしょ?実果はピルを飲んでる。ヘマはしない。アイツは勝手に将来設計してるけどさ、僕は大学生になったら実果とは関わらない。大学で自分に釣り合った子を探すつもり。
こんなど田舎じゃ、碌な相手がいない。だから、仕方ないんだよ。
アレと結婚するほど僕は馬鹿じゃない。お父さんとお母さんには迷惑はかけないから安心してよ。」
薄ら笑いを浮かべて話す翔太に海斗は開いた口が塞がらなかった。
「お前は……お前って奴は……大学に行ったら、もう帰ってくるな!」海斗は怒りで全身が震えていた。
やっぱり、翔太は『生まれ変わり』だったという考えしか海斗には浮かばなかった。一時も側にいるのさえ嫌だった。
一方、翔太は陽に怪我をさせたことだけ気にしていた。
「あのさ、お父さん、陽から訴えられるかな……それは困る。僕の将来に傷がつく。大会社の会長令嬢だもん。マズイよ。訴えられない為にはどうしたらいいと思う?」
この自分の事しか考えない翔太に、もう海斗は返す言葉も無かった。
神澤哲郎は、この件について娘のために事を荒立てないことにした。
陽も気にしていない。それどころか笑い話にしている。身体は弱いのに肝が据わっている。丈夫だったら、きっとなんでもできるのにと思うと娘が不憫でならなかった。
ただ、一木にだけは陽をもう二度と水川に連れて行くなと言った。亜衣ちゃんは、陽の大切な友達だから、これからは此処に招くように仕向けろとも付け加えた。
一木は後2ヶ月の陽の寿命を知ってしまったので苦しかった。
今は、5月の下旬。夏には自分の仕事は終わる。その後、陽はどうなる?バラバラになって別の何かになるとヒヒカリは言っていた。
女王は陽の深層意識の中にいる。あまり出来が宜しくない頭で上策はお持ちなのだろうか?
そういう一木にも満願成就、ハッピーエンドの結末は全く持って見えなかった。
それでも、一木にも新たな発見があった。
「今、この時」という意識だ。永遠に在り続ける自分でも「今、この時」が何ものにも換え難いという感情だ。
陽さんの側に居よう。今、この時は。
ネットを検索して、目新しいアイスクリームを探す。買いに行ける場所なら買いに行く。
陽さんが、子供らしい顔つきでアイスを食べるのを見ていよう。
わがままを言う時も笑って宥めよう。一緒に笑ってもいいかもしれない。
同じ時間は2度と来ない。似たような事が何度あっても決して同じではない。
アイが訪ねてくると陽さんは2人で自室に篭って内緒話だ。私もアイも高天原に戻ったら、なんの話をしていたのかアイに訊いてみよう。
「龍の島国」に来て15年以上が経った。私、イチキも色々な事を学んだ。
人には心がある。我らにもある。それらは皆違う音を出している。それが合わさると大きなオーケストラになる。
オーケストラの迫力ある音は1人では創れない。集合体でなければ出せない音だ。
右往左往しながら皆んなで壮大な音楽を演奏している。
会社は正にそれだ。家族もそうかもしれない。友達も。。。
共鳴しあって世界は成り立っている。
最初のコメントを投稿しよう!