8、落花生

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翔太が帰るなり、海斗は翔太を殴りつけた。 (よう)と一木は既に帰宅していた。 「お前は……お前は……(よう)さんに石を投げつけて怪我をさせただろう!」 翔太は平然としていた。 「ああ……(よう)だったのか。子供が覗き見してたから石を投げただけだよ。当たっちゃったんだ。それだけだよ。」 「お前は……あの女とそういう関係だったのか!2人とも高校生じゃないか!」 「お父さん、それが何?当たり前でしょ。付き合うってそういう事でしょ?実果はピルを飲んでる。ヘマはしない。アイツは勝手に将来設計してるけどさ、僕は大学生になったら実果とは関わらない。大学で自分に釣り合った子を探すつもり。 こんなど田舎じゃ、碌な相手がいない。だから、仕方ないんだよ。 アレと結婚するほど僕は馬鹿じゃない。お父さんとお母さんには迷惑はかけないから安心してよ。」 薄ら笑いを浮かべて話す翔太に海斗は開いた口が塞がらなかった。 「お前は……お前って奴は……大学に行ったら、もう帰ってくるな!」海斗は怒りで全身が震えていた。 やっぱり、翔太は『生まれ変わり』だったという考えしか海斗には浮かばなかった。一時も側にいるのさえ嫌だった。 一方、翔太は(よう)に怪我をさせたことだけ気にしていた。 「あのさ、お父さん、(よう)から訴えられるかな……それは困る。僕の将来に傷がつく。大会社の会長令嬢だもん。マズイよ。訴えられない為にはどうしたらいいと思う?」 この自分の事しか考えない翔太に、もう海斗は返す言葉も無かった。 神澤哲郎は、この件について娘のために事を荒立てないことにした。 (よう)も気にしていない。それどころか笑い話にしている。身体は弱いのに肝が据わっている。丈夫だったら、きっとなんでもできるのにと思うと娘が不憫でならなかった。 ただ、一木にだけは(よう)をもう二度と水川に連れて行くなと言った。亜衣ちゃんは、(よう)の大切な友達だから、これからは此処(ここ)に招くように仕向けろとも付け加えた。 一木は後2ヶ月の(よう)の寿命を知ってしまったので苦しかった。 今は、5月の下旬。夏には自分の仕事は終わる。その後、(よう)はどうなる?バラバラになって別の何かになるとヒヒカリは言っていた。 女王は(よう)の深層意識の中にいる。あまり出来が宜しくない頭で上策はお持ちなのだろうか? そういう一木にも満願成就、ハッピーエンドの結末は全く持って見えなかった。 それでも、一木にも新たな発見があった。 「今、この時」という意識だ。永遠に在り続ける自分でも「今、この時」が何ものにも換え難いという感情だ。 (よう)さんの側に居よう。今、この時は。 ネットを検索して、目新しいアイスクリームを探す。買いに行ける場所なら買いに行く。 (よう)さんが、子供らしい顔つきでアイスを食べるのを見ていよう。 わがままを言う時も笑って宥めよう。一緒に笑ってもいいかもしれない。 同じ時間は2度と来ない。似たような事が何度あっても決して同じではない。 アイが訪ねてくると(よう)さんは2人で自室に篭って内緒話だ。私もアイも高天原に戻ったら、なんの話をしていたのかアイに訊いてみよう。 「龍の島国」に来て15年以上が経った。私、イチキも色々な事を学んだ。 人には心がある。我らにもある。それらは皆違う音を出している。それが合わさると大きなオーケストラになる。 オーケストラの迫力ある音は1人では創れない。集合体でなければ出せない音だ。 右往左往しながら皆んなで壮大な音楽を演奏している。 会社は正にそれだ。家族もそうかもしれない。友達も。。。 共鳴しあって世界は成り立っている。
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