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9、異物
父と兄の仲が急に悪くなった。家の中が居心地悪い。お母さんに理由を尋ねても要領を得ない。
つまりは口を割らない。
兄も父も相手がそこに存在しないかの様に振る舞っている。穂高は、空気が読めないところに加えて自分の剣道のことで頭が一杯だから平気。私は、結構そういうのに敏感で息苦しい。
多分、あのことだ。陽ちゃんが言ってた「アレを見ちゃったのよぅ。」だ。アレとは多分「他所様の営み」だ。
陽ちゃんは、お嬢様のくせして表現がエグい。
「ねぇねぇ、亜衣ちゃん。アレは他所様にご披露するものじゃないわ。人間の起源は、ダーウィンが正しかった。やっぱりモンキーだったと実感したわ。律儀に頑張って腰を振るのよ。雄は。あははは。。。少女漫画のアレ、美しく描いてあるけど嘘、うっそ!ショックなんか受けないわよ。むしろ笑いのツボに入りそうで参ったわ。ただ只、ガン見しちゃったわよ。わたくしだって大人ですもの。こんな場所で?という意外感の方が満載よ。」
「どこで見たの?知ってる人?」
「それは、国家機密に属するわ。」
陽ちゃんは、澄ましていたけど多分、兄貴だ。実果が来なくなったもん。
父は実果を出禁にしたんだと思う。あんな奴、吐き気がするから来なくていい。兄ちゃんも手を切ればいいのに。
昼休みの兄ちゃんは、いつも違う女の子と弁当を食ってる。最近は実果がいなくなってる。手を切ったのかも。
翔太は実果と距離を置いていた。
実果にはこう言った。
「父さんに実果ちゃんと深い仲だってバレちゃった。もう、家には来ないで。学校でも側に寄らないで。外でデートしよう。実果ちゃんが1番好きなのは変わらないよ。」
本心は、「うざい。勝手に俺込みで将来設計するようなテメェとは付き合えない。浮気してもいいって言ったのは、どうでもいいからだよ。」だった。実果は変なところが素直で他所で遊んでいるらしい。それも興味が無かった。小さなこの学校で「喰いまくる」のも上策とは言えない。自由になりたくて翔太はイライラしていた。決まった1人に決めてしまったら自由じゃなくなると思っていた。
「土日は予備校でも行くかな。」
独り言で呟いた。オヤジもピリピリしていて家にも居場所がない。
一旦、実果と別れたと言って土下座してみるか。予備校ぐらい行かせてくれるだろう。オヤジも俺に早く出ていってもらいたいみたいだし。ウィンウィンじゃね。予備校を理由に少しは都会に近い場所に行こう。
都会に近い……スンゼミにすっか。立川にある。個別じゃダメだ。集団の中のボスザルになるのが目的だから。
土日しか行かない。いけないんだけどさ。1度目のテストで「世界が違う」事を見せつけてやる。最初の入塾テストで講師は理解するだろう。最初は大人しくして、おどおどして、その後に「世界」をひっくり返す。
勉強なんかしなくても普通に授業受けて普通に自宅学習して、好きな本を読んで……小説なんか読まねぇけどな。主に新書、ほぼ乱読。学術研究書なんかも読む。それで全国模試で10位以内に入っちまう。高等数学はゲームだ。化学式は美しいよ。今時、ラジオを愛用している。国営放送講座は、かなり語学に役に立つ。
学校のみんなは知らない。英会話なんてな、金かけないでもマスターできんだよ。国営放送!受信料払ってんだから有効活用しろ。
英語、中国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語……この辺は日常会話程度マスターしている。日本語もだ!
俺は子供の頃から、知ることと覚えることが大好きだった。スポーツは喧嘩も含めて全く才能がない。
ただ、弓道だけは何故かしてみたい。できる気がする。部活の上下関係が嫌でやってないけどな。
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