9、異物

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翔太は計画通り、スンゼミ予備校に入った。よっぽど翔太の顔を見るのが嫌だったのか、海斗は「毎日行け!」と言った。 翔太は嬉しかった。少しは都心に近いところに毎日行けるから。 素直にニコニコして父に「ありがとうございます。」と手をついて頭を下げた。 入塾テストで先ずは全教科満点を取った。自動的に「1番頭がいい子達のクラス」に入った。最初、翔太は自分のことを「田中です。」しか言わなかった。奥多摩町から来たことも言わなかった。それを言ったら全国模試TOP10のタナカショウタだとバレてしまう。 限りなく周りの猿に下手に出た。 「ああ、そうなんですか。すごいですねぇ」 「ご教授ありがとうございます。」 この辺がテンプレセリフでのらりくらりと本性を明かさなかった。 1回目の模擬テストは力を抜いた。クラスで真ん中ぐらいを狙った。 そしてまた、「みんなすごいねぇ」とか、主に女子に「一緒に勉強してくれないかな?」と少しオドオドして言ってみた。 みんな上から目線で「いいけどさ。もうちょっと努力したら。」と言ってくれる。翔太は腹の中で笑い転げていた。 全国スンゼミ模試で「本気でやってやろうかい!」と狙っていた。講師にも成績が入塾の時に期待したほど振るわないのでご指導された。 講師は、自分の分校から何人有名大学に入れるかが仕事の評価だ。「仕方ねぇよな、大変だな。大人は辛いよねぇ。」 心の中でだけ詫びた。翔太はこのパワーゲームが面白くてたまらなかった。 翔太は現代社会において「知能が高い」のは最大の武器だと思っていた。努力なんかじゃどうにもならない。最後は知能。天賦の才能だと。講師が言う努力も本当は嘘だと思っていた。努力しなくてもできる奴はできる。自分がそうだから。 そろそろ手持ちのカードをみんなに見せようとワクワクしていた。 一つ計画外のことがあった。スンゼミの女子はお堅い。ちょっとやそっとでは引っかからない。でも、難攻不落を落とすのも面白い。頭が良くて綺麗なのを物色していた。物件は2件。これはこれで面白いゲームだ。 学校みたいにイージーモードじゃない。かなり頭を使わないと操作できないレベルの集まり。その分、思ったように動いてくれると嬉しい。 真面目に学問に取り組みました。 取り組みました。皆様のご期待に応えて。 さらっとブッチギリの全国スンゼミ模試1位獲得。パチパチパチと誰も手を叩いてくれない。 周りの態度はガラッと変わった。 バケモノを見る目つき。 分かりやすい数値には反応する。コレ、なんとかならない? 日本人ってさ、数字で結果出しちゃうとドン引きするんだよね。 大人になると金。資産総額だ。 本当の俺は、奥多摩のショボい神社の長男。 一応、将来有望って事になるらしいわ。 スンゼミのボスザル。ボスザルになれば、メスが寄ってくるはずなんだけど、そうはいかない。この猿山のメスは自分がボスザルになろうと躍起だからさ。 まぁ、俺たち未だガキだからさ、一発逆転を皆んな狙ってる。 叩き潰してやる。 座った席を誰が譲るかよ。 大学入試はT大文2で決定!当たり前。受からない気がしない。 俺は何にでもなれる。理3にしようかな。 医者は……実家がしょぼいから利益が出ない。勤務医じゃーな。問題外。 弁護士は事務所持たなきゃ金になんねぇ。 やっぱり金回す、経済系だな。 結局は、金なんなだよな。元銭がないと何やっても上手くいかない。 今日から、株式投資でもやろうかな。お年玉貯金が100万くらいあったな。 自分で相場を読む。短期の売り買いを仕掛ける。ニーサなんて積立やってられるか! アレは投資信託だ。人任せは搾取される側の道だ。 俺は搾取する側になる。授業中もスマホで相場を読む。勉強はできるから、教師もスルーしてくれる。 東証プライムは、勉強より面白い。
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