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10、早川ごはんの会
葵は、恒例の「早川ごはんの会」に出かけた。年に2回の開催で早川一族が揃う日だ。
毎回、O宮駅そばのホテルのバンケットルームが会場だ。
葵の3人の兄、一也、次也、三也も高齢になったが、みんな現役医師として働いていた。
恐ろしい事に、早川の血筋は、殆どが医療従事者だ。医師、看護師、臨床検査技師、レントゲン師、カウンセラー、臨床心理士、医師でも麻酔医まで全部の診療科が揃っている。
一也は言う。
「私たちの母、早川百合の執念と怨念だ。」
葵の兄達の母は、銀行役員の娘だった。カネヅルを掴んだ父、早川哲也は猛烈な勢いで病院経営に乗り出した。それは経営以外の何物でも無かった。
早川総合病院を拡大して、数多の系列クリニックを出店した。それを死ぬまで続けたのが父、哲也と百合だった。二人は、そのためのパートナーだった。
百合という女性は幸せだったのか……葵には分からない。百合ももう居ない。
葵は、百合の「天敵」の子供で自分は自分の母親の立場でしかモノを考えられない。
兄さん達が、自分を可愛がってくれたのが不思議で仕方ない。
途中から、光が会場に入ってきた。
相変わらず、挨拶も碌にしないでニコリともしない。
長テーブルの隅に座って酒を飲み出した。
葵が近くに寄って声をかけた。
「光。美穂ちゃんと梓は?」
「美穂は、こういうの苦手だって知ってるでしょう?それより、海斗が煩いんだよ。」と怒ったように言ってくる。
「翔太がアイツの生まれ変わりだってさ。非科学的で論理としても成り立ってない。面倒臭い。」
光がイライラしている時、葵は思う。
何処かで光も変わった。妻の美穂を連れていないのは、美穂を守るためだというのは分かる。
でも、オペが終わるとスタッフに当たり散らすというのは、人間としてダメじゃないかと思う。
怒りを発散させると振り向きもせずに帰ってしまうという。子供の頃と今では別人だ。
この子は……と言ってももう43歳だが、冷酷なところがある。オペをする時、魚を捌いているようだという。
腕は良いが、およそ患者さんを人間として見ていないような態度を取る。スタッフに対しても同じだと聞いている。
葵は、自分が光の存在に気が付かず、ずっと放置していたことと、気がついてからも、光に「調整役」を押し付けていたことに後悔していた。
反面、問題の無い家族はいるのだろうか?そんな疑問もある。
「親のせい」の範囲は子の一生を指すのか?親はどこまで子供の人格形成に影響を与えるのだろう……分からないことだらけだ。
環境で一生が決まるのなら、人生の意味は何処にあるというのか。
「お父さん!聞いてるの?!」
光の声で葵はハッとした。葵は光の方を向いてハッキリ言った。
「お前は、田中翔に似ている。」
「はぁ?なに言ってるんですか?似てませんよ!私が1番嫌がることを言うなんて喧嘩したいんですか?」
「喧嘩じゃない!親だから言っている。疲れているからといってスタッフに当たるなんて最低だ。よく考えろ。医者は何のために存在しているのかも含めてな。海斗の話も親身になって聞いてやりなさい。聞くだけで良いから。兄弟だろう?叔父さん達は私に優しくしてくれたよ。立場は光と海斗と同じだ。半分だけ兄弟だ。」
光は顔を真っ赤にすると、そのまま会場を出て行ってしまった。
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