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2、面談
「そうですね。眠れるようにはなりました。やはり、初めの頃に先生がおっしゃっていた様に普通に悲しかったんですね。母親が死んで悲しくないわけはないですから………。学校に行くのは、まだ少し難しいかな。疲れちゃうんです。お勉強が遅れるのが心配です。」
「内科の早川先生は、どう言ってる?」
「う〜ん。無理は禁物と言っています。」
早川葵は、精神療法の面談の中で陽の体力の無さに気がついた。そして、父親である神澤哲郎に内科医に診てもらった方がいいと進言したのだ。結局、早川総合病院の葵の甥が担当している。それも往診だ。
陽の身体は小さい。身長150センチあるかないか、体重35キロ。15歳になろうと言うのに初潮も迎えていない。
一木さんは、いつも面談の時は立ち会っている。
相変わらず面談は陽の自室だ。
「ご飯は食べられている?」
「はい。少食ですけれど、栄養バランスには気をつけています。」
葵は一木の方を見て、「もっと美味しい差し入れをしてくださいね。」と半分冗談を言う。すると、陽が一木を庇う。
「先生、一木さんは何時も違うお店のアイスクリームを買ってきてくださるのよ。ねっ。」と言いながら一木ににっこりとする。
いい歳をしたオッサンが真っ赤になる。分かりやすいなぁと葵は感心する。
ううん。これはコレでかなり大変な片想いだなと一木の顔をまじまじと見る。
年の差も相当だが、相手はお嬢様も良いところで「高嶺の花」にも程がある。でも、この「高嶺の花」はオッサンのことがまんざらでもない。一木はバカ真面目だから、分かってないだろう。教えてやろうかな……暴走したら厄介だからやめておこう。
面談が終わった後、一木と話す。
「一木さん。やっぱり陽さんと陽は別人だよ。だって陽さんの方が、ずっと大人っぽい。」
「そうですか。どこに行っちゃたんでしょう……仕事の都合で居てくれると楽なんですけど。そんなに陽さんって、子供っぽいんですか?」
「うん。残念ながら……そうなんだよ。で、読み書きができないでしょう?それで誤解されている。」
「頭が悪いとか?そう言うことですか?」
「そう。頭は悪くないんだよ。物事の確信をズバッと突いてくる。」
一木はいちいち思い当たることばかりだった。「けつじゃう」で「思ひの山」が出来るのは、ある部分がNoで差し戻して部下に考え直させているんだということに。だから、赤筆がある。神澤会長の仕事の仕方を見て気がついた。猿山のボス猿は、どこの猿山でも同じだった。
高天原でも「龍の島国」でも。
「一木さん、君は彼女を雇い主だと言ったね。君は彼女を探さないの?」
「いや、探しませんよ。自分のお役目第一と仕込まれてますから。あの方は、最後は自分で何とかしてしまうので大丈夫です。」
「ふぅん……でもさ、私のことも忘れないでね。ずっと待ってるわけ。いい加減にしてほしいわけ。話せる情報があったら教えてくれるかな。」
一木からしたら、充分老人の65歳が、大人気なく感情を晒すのを見て「キレる老人?」と勘繰ってしまった。
「話せることは何もないんです。本当にいなくなっていて困ってるんですよ。私も。」
「君たちの仕事は何?」
「それは、ご勘弁と言うことでお許しください。」
一木を虐めても仕方ないと葵にも分かっている。陽には自分勝手なところもある。一木が漏らした言葉。「女王」……女王様気質だ。
陽ちゃんは、鬱じゃなかった。それよりも問題は身体の方だ。陽は無理をして鬱が再発していないといいんだが……。
陽ちゃんが大声で「一木さん!冷たいお飲みものが欲しいの!」と部屋の中から叫んでる。一木も私も女王様の下僕に過ぎないのかもな。
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