12、運命の人

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3時間のデートが終わると二人は寝袋を片付けて、ゴミとランタン一つを持って2人で外に出た。 「俺さ、受験が終わるまでは中々会えないんだ。時々、会ってくれる?」 「いいけど、私、夏休みは実家に帰るよ。」 「分かった。俺も頑張って夏期講習乗り切るわ。」 この二人は、似た者同士だった。お互いに別々の場所で経済活動を行っていた。 翔太は、パソコンに齧り付いて経済活動。 実果はチームプレイだ。チームを率いて指揮し経済活動。 実果は、翔太からのプレゼントが本当に嬉しかった。それも真実だった。 似たもの同士であり運命の相手。それが、どんな運命であろうとも本物であるならば、逃げられない。 実果の経済活動は活発で、翔太が思いもつかないものだった。 翔太は、合法的に真っ当な経済活動をしていただけだった。ある意味一つの社会勉強だった。 実果の経済活動は変貌していた。自分を売り物にしているうちは未だマシだ。 そこから一歩先は闇。闇は何処から闇なのだろう。 夕暮れ時はない。 いきなり夜になる。 人は、その境目が分からないから闇に落ちるのだ。 その日、翔太は、そのまま家には帰らなかった。オヤジがうざいから。夜遅くに帰ろうと思っていた。 立川のスンゼミに行った。最後の一コマだけ授業を受けた。勉強は好きだった。答えがない学問、哲学だけは嫌いだった。 嫌いでもテストには対応できた。暗記である。丸々丸呑み。 そんな翔太でも、損得以外の何かがあることには気づいていた。 実果とは、高校でおさらばするつもりでいた。強欲で男にだらしない実果は配偶者にはなり得ないと思っていた。 でも、実果のたかが「ヴィ○ンの財布」で見せる笑顔が逆に純粋で尊いものにも思える。 分かりやすいということは、本来の実果は素直なのかも知れない。 少し前まで持っていた自分の価値観。 家族仲良くご飯を食べる毎日が幸福の限界だという考え方。 それを支えるのにも金が必要な現実。 凄くしたい事があるわけではない。 一言で言えば、翔太は幸せになりたかっただけだった。 翔太は、自分が父親ときちんと話さなけらばならないのは分かっていた。 翔太は自分が祖父の生まれ変わりだと思われていることは知らなかった。 それで、父が神経質になっていることも知らなかった。 たとえ、それが事実だったとしても、翔太にしてみれば殆どそれは言いがかりだ。 それを海斗は分かっていなかった。 実の父親の全てを知っているわけでもないのに、実の子の全てを知っているわけでもないのに、親子であるという事実が考える余地さえ奪っていく。 光と葵も同じような迷路に嵌まり込んでいた。昔、葵が2人の子に施したはずの「世界の見方」の教育を実践することは、とても難しいということに葵自身も気がついていなかった。 論理と感情、そこに関係性が加わるから人間は難しい。 親子兄弟は夫婦より難しい。別れることができない。 翔太の中のカケルは、それさえも面白がっていた。元々、翔太は居ない。カケルが違う育ちをしたらというバージョンが翔太だ。 カケルは学んでいた。神澤翔だった時より更に学んでいた。 駆け引きを学んでいた。心と心の駆け引き。金と金の駆け引き。手持ちカードの出し方。それら全ては「裁断の日」を迎えて以降に必要だ。 実果は正に運命の相手だということも知っていた。だから、予想も立っていたし結論も出ていた。
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