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13、盆の入り
お盆というと8月を考える人が多い。東京では7月がお盆だ。盆の入りの日に、陽は一木に母の墓参りに連れて行ってもらった。
学校が終わってから出かけたので墓前に手を合わせた頃には夕方になっていた。
陽という「衣」の期限は、後2週間と少し。それでも、一木は考えないように努力していた。
女王のあるかないか分からない秘策に賭けることにした。
陽は相変わらず小さくて、小学校5年生くらいにしか見えない。でも、雰囲気は15歳だ。それ以上かも知れない。落ち着いている。学校にも行けている。この前の日曜日には、亜衣が遊びに来た。また、2人で内緒話をしていた。
一木は陽を「お嬢さん」と呼んでいた。
陽は、結構わがままだ。「アレを買ってきて。」「これを取り寄せて。」と一木は使い倒されている。お墓参りの帰り道、「お腹が空いたわ。」とまた文句を言い出した。
「コンビニでいいですか?」と運転席で一木が言うと「この際、なんでもいいわ。でも、あまりジャンクな物は嫌。」と言うお答えだ。
「コーヒーはドリップしたもの。後ねぇ、お弁当はイヤ。果物、バナナぐらいしかないわよね〜。考えても食べられる物がないわね。チャージしたいから甘いものね。アメリカンなクッキーを探してきて。それなら、コーヒーに合うでしょ。」
「はいはい。かしこまりました。」
高速を降りて、1番最初のコンビニに車を停めた。後ろを振り返るとお嬢さんは、さっきまで偉そうに命令していたのに眠っていた。ほんの10分だ。起こしてもかわいそうかと一木は思った。車を降りてロックした。夜の8時前だった。7月半ば。陽が落ちたばかりに思える程度の夜だった。
ワガママお嬢様が指定したアメリカンクッキー2種類を買って、ドリップコーヒーを持って一木が駐車場に出たら、車が無くなっていた。
車内にお嬢さんが居るのに車が消えていた。
コービーもクッキーも一木の手から離れ足元に落ちた。
慌てて、コンビニの中に戻ると店員に事情を説明した。店員は警察に通報した。
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