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14、東京都大田区
一木が田中家の玄関で泣き崩れていた同時刻、東京都大田区○田警察署に一本の匿名電話がかかってきた。
「東京都大田区○○谷×−×ー× 廃工場。そこに神澤工業の娘がいる。」それだけ言って電話は切れた。発信元は○田の公衆電話。声はボイスチェンジャーで加工されていた。録音の再生。発信元公衆電話付近の数台のカメラには同時刻、何も録画されていなかった。その時間だけ全部のカメラが故障していた。
警察官が現場に到着すると、大量の血痕が掃除し切れずに残っていた。
そして、根本から切り落とされた左手の中指が発見された。D N A鑑定により、指は神澤陽(15)の身体の一部と判明した。指には生体反応があり、生きたまま切り落とされたと断定された。残された血痕から推察される出血量を鑑みると被害者は既に死亡していると見るのが妥当。これが、鑑識の見解であった。
分家は、陽の遺体を遺族に返すために走り回っていた。
遺体は確保できなかった。それは、もう存在していなかったからだ。
陽は薬剤で溶かされてしまった。
東京都大田区は、田園調布や山王、久ヶ原などの高級住宅街と、京浜工業地帯が共存する地域である。経営側である富裕層と海から追われた元海苔漁師が町工場を営む下請け側が昭和30年代から同時に存在していた。
昔から東京23区の中でも見える格差が激しい地域である。
バブル崩壊以降、町工場は次々と消えていった。その跡地にはマンションが建設された。
現在では、町工場の町という感想を抱く人は少ないだろう。
それでも、同じ区内で絶望的な格差は残っている。格差は暮らしだけに留まらず、教育格差も大きい。それは現在も未だ垣間見える。
親世代の教育格差は子に引き継がれる。残念ながらそれが現実である。
彼女が、この街に陽を連れてきて処分したのは、自分でも自覚出来ない意図があった。
「不公平感」である。生まれた親が違うだけで自分が所有できるモノの価値も量も違ってしまう。
親は選べないのである。
努力すれば、勉強すれば、なんとかなる。本当にそうだろうか。彼女は違うと思っていた。だから異議申し立てをした。
逆を言えば彼女は権力も金も持っていなかった。だから自分の持てるモノを総動員して力を行使した。
彼女からしたら、不公平を正してやってやったくらいの動機しかなかった。
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