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16、Change The Date(延期)
ヒヒカリとイチキはカケルの捕縛を一旦棚上げした。
一木拓也は、それどころではなかった。神澤哲郎が倒れてしまったのだ。
いつも、余裕があって井上と一木のくだらないバトルを笑って見ていたのに、いっぺんに年老いて弱くなってしまった。
そして一木に向かって言うのだ。
「本当はね、陽が大人になれたら、一木に婿になってもらいたかったんだ。だから、ウチに出入りさせた。陽も一木の事好きだったみたいだ。
一木さんは彼女いるのかな?と何回も陽は訊いてきたよ。
いつまで経っても小学生みたいにしか見えない娘でも、心はちゃんと成長していたんだよ。」
一木は涙を堪えて、頷くことしかできない。笑うことも泣くことも似合わないと感じていた。
元々、イチキという在る者は、知識を溜め込んで考えることしか興味がない柱だった。
それが、感情に振り回されているどころか、自分の感情に飲み込まれていた。
殆ど機能不全に陥っていた。
「龍の島国」
来たいと思って来たわけではない。
お役目だから、仕事だから来ただけだ。
ここは、
なんて残酷な、なんて醜い国なんだ。
お嬢さんは指一本だけになってしまった。
何も悪いことはしてないのに。
少しワガママだっただけだ。
会長は、お嬢さんのお葬式を出すのを拒んでいる。私は、お嬢さんの「小さな気」は、再構成されて違う何かになったと知っている。
それは人ではないかもしれない。
脇道に咲く花かもしれない。
風に乗って他の国に行ったかもしれない。
それが一番いい。他の国。
ここではない、何処か遠くへ。
私もそこに行きたいけれど多分無理だ。
元々、世界が違うのだから。
一木は少しずつ精神のバランスを崩していった。気の病に傾いていった。
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