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それは4月の高校3年のスタートの日だった。
安達実果という転入生が都区内から奥多摩の都立高校に入って来た日。
翔太は変容した。まず、実果を彼女にし、父親の海斗に自分の考えが変わったことを話した。
「色々考えたんだけど、やっぱり大学は法学か医学に行く。士業に就きたい。勉強だけはできるから、それで勝負をしてみたい。国立に行く。家を出ることになるけど。」
海斗は、余りにも優秀な頭脳を持った息子に対して反対はできなかった。
「先生にしっかり相談しなさい。」とだけ言った。
翔太は、「予備校に通いたい。夏休みと受験直前だけ。それから、全国模試を毎月受けたい。」という希望も出した。
2年の3学期の全国模試も3位だった翔太。したいことがあるなら、したほうがいい。。。でも、海斗は見逃さなかった。翔太の色が変化していることを。
翔太が、母家の広間から出ていくと入れ替わりに亜衣が入ってきて海斗に小さな声で言った。
「にいちゃん、変わった。色が青から……何だろう?透明感が無くなった。お父さん、大丈夫だと思う?」
「わからない。今、翔太は進路を変えたいと言ってきた。ここの後継ではなくて士業だって。それはいいんだが、色の変化と同時にだと少し心配だ。」
「まぁ、お兄ちゃんがそう思うのは当たり前だけどね。誰だって頭が良ければ、そう思うでしょ。後継は私がなるよ。女でも良いんでしょう?穂高じゃ、氏子さんの前ですっ転びそう。」
この亜衣の言葉には海斗も大声で笑った。
その1週間後、亜衣は兄の変容に気づいた。
兄は勉強ができるけれど目立たない。まるで影のように存在感がなかった。
それが、同じ高校の1年生である亜衣の同級生たちから、「亜衣ちゃんのお兄さんカッコいいね。」と言われる様になったのだ。
家族は、そんなことに気づかない。凄く距離が近いからだ。
「何がカッコいいの?」と亜衣は訊ねた。
「なんかもう。居るだけでカッコイイ。イケメンだし、背も高いし、勉強が超できるし。」
「上級生はなんて言ってる?部活の上級生は?」
「優良物件発見〜!とか隠れた逸材とか…そんな感じ。凄くモテ始めたみたい。ずっと居たのにね。変だね。」
亜衣は嫌な予感がしていた。父、海斗は小さな頃から兄だけに厳しかった。なぜなんだろう。父に話さなければと思った。
よく観察してみる。兄のことを。
昼休み。兄の教室を見に行った。兄はいなかった。同じクラスの上級生に訊いたら兄は校庭でお弁当を食べる様になったという。4人の女の子達とお弁当を一緒に食べていた。うち、1人が距離が近い。兄の腕に手を回したり、背中を摩ったり。あまり美人じゃない。周りの女の子達も含めて気の色を見る。
兄は面白がってる。距離が近い子は威嚇している。周りの3人は牽制しあってる。共通の敵として距離が近い子を認識している。
兄の面白がり方は、みんなを操ってせせら笑っている。。。あんな色をする様になっていたのか!
何か恐ろしいことが近づいてきている気がする。
下校時間も亜衣は兄を探したが、掃除もしないで帰ったという。
亜衣は掃除が終わると道着を持って、少林寺拳法の道場に行った。「自己確立」「自他共楽」と心で唱えなが基本諸法を繰り返した。神社の娘である亜衣が少林寺拳法に関わり始めたのは、凄く小さい時だ。カッコイイと思った。でも、今はそれだけじゃない。その後ろにある思想、守りに基本を置いた少林寺拳法は自分に必要なものだと思っている。
兄ちゃんは、大人しくて勉強だけができる子だったのに、つい先日までそうだったのに、何があったらああなるんだと亜衣は混乱していた。
亜衣は、その日のうちに父とじいちゃんに翔太は明らかに変わったことを報告した。
「お父さん、じいちゃん。兄ちゃんは他人の心を操っている。それは「力」ではないの。あの頭脳で『人たらし』をしている。それも女子ばかり。今日見たのは4人。お互いが牽制し合うように多分仕向けてる。それを面白がっている。学校での兄ちゃんは、別人。気の色が目立つ。下級生までカッコイイって兄ちゃんのことを言う。変だ。家では前と変わらないのに。」
亜衣の言葉を聞いた海斗と晃は顔を見合わせた。
「じいちゃんは、どうしたらいいと思う?」と海斗が訊いた。
「海斗はどうしたい?」と晃が訊き返す。
「最初から疑っていることが真実だったとしたら家から出します。丁度、本人も大学に行ったら一人暮らしをしたい様なので。後は、本人次第でしょう。そして、もうこの家には近づけません。敷居を跨がせません。文恵は反対するだろうけど。」
それを聞いた亜衣が「何の話をしているの?最初から疑っていることって何?」と海斗に訊いた。
海斗は亜衣の方を向いて答えた。
「翔太は、お父さんのお父さん、本当の亜衣のおじいちゃんの生まれ変わりだと疑ってたんだ。その人は粗暴で女癖が悪くてどうしようもない人だった。だから、翔太は厳しく躾けた。大丈夫だと思っていたんだが……。
亜衣、どうしようもないよ。別に犯罪を犯しているわけじゃない。ただ家族はたまったもんじゃない。だから、少しずつ距離を置こう。」
亜衣が広間から出ていくと海斗はじいちゃんに翔太の「読心」を頼んだ。
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