3人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
翔太は、晃を見ると離れようとする。子供の時からそうだ。
もうそれだけで、正体をバラしているのと同様なのに。利口なようでバカだと晃はいつも思う。
晃は翔太に言った。
「翔太。最近、学校でモテ始めたみたいじゃないか。亜衣が言ってたよ。ガールフレンドでもできたか?」
名指しなら逃げられない。カケルみたいに『うるせぇんだよ!』とは言えないだろう。
翔太は、にっこり笑った。「うん。できたよ。今度、うちに連れてきてもいい?」と答えた。
「是非連れておいで。じいちゃんも楽しみだよ。お母さんに報告しな。喜ぶよ。」
翔太の心を読心したが、何も気になる様なことはない。ただ、普通の高校生のように初めての彼女に胸をときめかせている。
カケルにブロックされているのか。
分からない。
土曜日、文恵は朝からソワソワしていた。
あの大人しい翔太が彼女を連れてくるなんて……と言いながらお昼にしては豪華な料理を作っていた。
翔太が彼女を連れてきたみたいだ。文恵が台所から、バタバタと走る音がする。海斗は床の間のある本間に座って待っていた。
その子、安達実果を見た時、海斗は背筋が凍った。亜衣は朝から道場に行ってしまっていた。コレから逃げるためだったと分かった。
その女の気は凡そ人間のものではなかったのだ。最初から、そうだったのか途中からそうなったのかは分からない。
海斗は何とか吐き気を堪えて何も感じていないふりをした。じいちゃんは庭にいるはずなのに中に入ってこない。じいちゃんも感じ取っているはずだ。穂高も出かけていて良かった。
話して見ると普通の子だ。けれど、育ちは相当悪そうだ。座卓に肘をついて足を崩すというか開いて座っている。他人の家に来て18歳でこれでは、まともなところでは働けない。誰も教えてくれる人がいなかったか、保護者からしてまともじゃないということか。
言葉遣いもおかしい。私が古いと言われるのかもしれないが、「ウチ」と言う一人称は気持ち悪い。語尾が上がってるところも。それ京都の人だろう?大人と話す時は使い分けてくれ。
今は、自分の親を他人に「うちのお父さん、うちのお母さん」というのか?カケルも言葉遣いは酷かったが、そこは「父、母」だった。
とにかく、気の色は色じゃない何かを纏っている。翔太は、この子のどこが良いんだ?頭だって翔太の方が何倍も良いはずだ。話が合うのか?
おまけに翔太の彼女は文恵が用意した昼ごはんを断った。
「太りたくないので遠慮します。」
それはないだろう。文恵への嫌味にも聞こえる。確かに文恵は太っている。子供を3人産んだらポッチャリからはみ出した。
「確かに若いお嬢さんに揚げ物はなかったわよね。」と文恵の方が反省していた。
「お父さん、可愛くて良い子でしょう。これからはここに来て良いよね。」と翔太が言う。本人が横にいるのに。これは確信犯だ。
「いつでもいらっしゃい。」と言うしかない状況を翔太に作り出された。
翔太は『人たらし』かもしれない。
ほんの短時間で済んでホッとした。
2人が外に出たら、じいちゃんが家に入ってきた。
「凄いのを連れていたな。」とじいちゃんが感想を述べたので「逃げるなんてずるい。」と海斗は言い返した。
「吐くかと思った。」
「亜衣が逃げ出した時点で気がつくべきだったな。亜衣の方が敏感なんだよ。」
晃はふふふ。。。と意味深な笑いをした。
本物の魔物は暫く見なかった。いよいよ来たか。あんなのに会ってしまったら、カケルは、どっちがどっちを喰ったか知らんが、ただでは済まなかっただろうな。そろそろ、刈り取ろう。置いておくだけ人間の世界に迷惑をかける。
陽は、いつも詰めが甘い。
「裁断」というものは、袈裟懸けでバッサリやらないとダメだ。
もしくは首を刎ねるか。
慈悲など必要ない。私や陽のようなものは「人間」を守るために存在している。
同じ柱でも魔物でも、人間に害を与えるものは躊躇なく処分できるようにならなくては一人前ではない。
陽は未だ子供だ。
最初のコメントを投稿しよう!