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鳥は決して、優しい性格ではありませんでした。どちらかといえば、他の生き物にあまり興味を持たない故、薄情者でした。 鳥が竜の赤ちゃんの面倒をみようと思ったのは、気まぐれのほかにありませんでした。
「運よく火事から生き残ったんだ。せっかくだし、お前が一匹で生きていけるくらいになるまでは、面倒をみてやろう」
「それじゃあ、お母さんだ!」
泣いていた竜の赤ちゃんは、さらに泣いたかと思えば鳥に飛びつきました。
そうして、鳥の子育てが始まりました。鳥は博識でした。竜が腹を空かせたのなら、いまの彼に食べられそうなものを持ってきます。竜の翼が大きくなってきたのなら、少し高いところから飛び降りさせて飛行の練習。徐々に飛べるようになったのなら、今度は一緒に空を飛びます。
「みてみて、お母さん! 僕、もっと飛べるよ」
赤ちゃんだった竜は、気付けば鳥よりも大きく育っていました。青空に広げた翼をぐんと羽ばたかせれば、より太陽に近づいていきます。 鳥も竜に続こうとしますが、それ以上、高度を上げることができませんでした。
「あれ? 大丈夫?」
気付いた竜が鳥の隣に戻ってきます。
「ごめんなさい! お母さんは鳥で、僕は竜だってこと、忘れてた」
「いつも『別の生き物なんだから』と言ってるはずなんだがね……」
鳥に比べて、竜は体力も運動力もありました。そんな竜についてきていたのだから、鳥はもう疲れ切っていました。
竜は慌てて地上を目指し、着陸します。そうして鳥も、地面に降り立ちました。 着地したのなら、鳥はすぐに身体を丸くしてしまいました。
「お前、もう随分立派になったじゃないか。そろそろ独り立ちしてみたらどうだ?」
鳥は苦笑いを竜に向けますが、竜は途端に悲しい顔をするのでした。
「お母さんとお別れするのは寂しいよ! お願い、あともうちょっとだけいさせて!」
もうすでに長い時間を鳥は竜と過ごしていました。だから「息子」にそう言われてしまったのなら、鳥は強く言い返せないのでした。
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