OAO

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 マムが発熱した。PCスクリーンの向こう側で、マムは赤い顔をして力なく笑っていた。 「街の病院の機能は麻痺していて、受診出来そうにないの」 「近くで頼れそうな人はいるのか? 」  PCにつかみ掛かるような勢いのダッドのせいで、僕の視界は遮られた。 「それでね、伝えておくことがあるのよ」 と、僕とマムが住んでいたアパートメント近くに住む奈々さんとしたという約束を聞いた。それはこのパンデミックで亡くなったら、お互いの葬儀、住宅退去をしあおうという話だった。それに必要なお金の所在もオープンにしているそう。 「だから、何かあった時に、形見として欲しいものは、奈々に頼んで欲しいの」 「嫌だ、聞かないし、聞こえない」  ダッドはマムの話に耳をかさないとばかりに首を振った。 「もうすぐ渡航制限は解除されて、やっと一緒に暮らせるんだ。あとの人生は蓉子(ヨーコ)の側を離れないよ」  マムとぼくに言い聞かせるよう、未来を誓うダッドの背中がいつもと違って、なんだか頼もしかった。    マムのコロナだろう症状が治り、少ししてから、不安のもやが晴れるかのように、ニューヨークの制限も緩んだ。そのわずかな隙に、マムは故郷の日本に居を移すことができた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加