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マムが発熱した。PCスクリーンの向こう側で、マムは赤い顔をして力なく笑っていた。
「街の病院の機能は麻痺していて、受診出来そうにないの」
「近くで頼れそうな人はいるのか? 」
PCにつかみ掛かるような勢いのダッドのせいで、僕の視界は遮られた。
「それでね、伝えておくことがあるのよ」
と、僕とマムが住んでいたアパートメント近くに住む奈々さんとしたという約束を聞いた。それはこのパンデミックで亡くなったら、お互いの葬儀、住宅退去をしあおうという話だった。それに必要なお金の所在もオープンにしているそう。
「だから、何かあった時に、形見として欲しいものは、奈々に頼んで欲しいの」
「嫌だ、聞かないし、聞こえない」
ダッドはマムの話に耳をかさないとばかりに首を振った。
「もうすぐ渡航制限は解除されて、やっと一緒に暮らせるんだ。あとの人生は蓉子の側を離れないよ」
マムとぼくに言い聞かせるよう、未来を誓うダッドの背中がいつもと違って、なんだか頼もしかった。
マムのコロナだろう症状が治り、少ししてから、不安のもやが晴れるかのように、ニューヨークの制限も緩んだ。そのわずかな隙に、マムは故郷の日本に居を移すことができた。
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