◇04. 負けるな。光歩

2/7
前へ
/47ページ
次へ
 ぼくもなんとなくは、記憶している。男の影。ふるわれる影。黙って耐える母。ぼくを包む母のぬくもり……。  稲庭さんの様子からは、あの頃の母と同じような、ただならぬものを感じた。  稲庭さんがこんなにもなるだなんて、よっぽどのことだ。このひとは、……誰がどんなミスをしても動じない。そんなこと誰にだってあるわよ大丈夫、と微笑むくらいのひとだ。  ぼくの母が好きな漫画に、『天使の微笑み』というフレーズが出てくる。  まさにそれを思わせる、あなたの微笑みは、あまりにも――。 「もう、大丈夫だから……」時間にして一分足らず。こんな短時間であなたは、自分を取り戻した。「ごめんね……心配かけて……ありがとう。もう、本当に、大丈夫だから……」  腹の底から湧き上がる、どうしようもならない感情。  あなたの顔は真っ青だ。いまにも倒れこみそうな恐怖を抱え、また、あなたはひとりで……!! 「……いまのあなたを黙って家に帰して家に帰って寝ろ、と言うんですか?  残酷ですよ光歩さん。  ぼくに、――あなたを好きになる権利を、ください」 「永守くん……」
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加