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ぼくもなんとなくは、記憶している。男の影。ふるわれる影。黙って耐える母。ぼくを包む母のぬくもり……。
稲庭さんの様子からは、あの頃の母と同じような、ただならぬものを感じた。
稲庭さんがこんなにもなるだなんて、よっぽどのことだ。このひとは、……誰がどんなミスをしても動じない。そんなこと誰にだってあるわよ大丈夫、と微笑むくらいのひとだ。
ぼくの母が好きな漫画に、『天使の微笑み』というフレーズが出てくる。
まさにそれを思わせる、あなたの微笑みは、あまりにも――。
「もう、大丈夫だから……」時間にして一分足らず。こんな短時間であなたは、自分を取り戻した。「ごめんね……心配かけて……ありがとう。もう、本当に、大丈夫だから……」
腹の底から湧き上がる、どうしようもならない感情。
あなたの顔は真っ青だ。いまにも倒れこみそうな恐怖を抱え、また、あなたはひとりで……!!
「……いまのあなたを黙って家に帰して家に帰って寝ろ、と言うんですか?
残酷ですよ光歩さん。
ぼくに、――あなたを好きになる権利を、ください」
「永守くん……」
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