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一面に広がる桜色の花の海。まるで夢の中に迷い込んだかのようだ。
花びらは踊り子のように風に舞い、光に照らされるたびキラキラと輝く。
優雅で、神秘的で、生命の喜びに満ちて。
春の暖かさに包まれて、ただただ見惚れてしまうほどの桜の木々。
横を見れば般若。
見上げると愛に満ち溢れた桜たちが豪華絢爛な絵画を描くように空を彩る。
目線を隣に向けると般若が僕を睨んでいる。
詩人の言葉を紡いだかのような幻想的な桜。
憎しみの呪詛を連ねるかのような般若。
美に映える桜。
怒りの形相たる般若。
どうしてこうなったのか。数分前の問答に思いを馳せる。
「すごーい!満開だね!」
「うん!キレイだねー!」
僕は数年間付き合ってる彼女とともに桜の名所である公園に訪れていた。目の前に広がる満開の桜に感嘆の声をあげる。無邪気に笑う彼女を見ながら僕はおどけてみせた。
「ほらここ!桜の花びらが積もってる!・・・・えいっ!」
「わぁ!やったな~~。おかえし!」
海で水をかけるように花びらをすくって彼女に浴びせる。彼女も負けじと花びらの山から一握りつかんで僕に投げつけてくる。二人だけの世界でキャッキャと戯れる。どこにでもいるようなカップルだ。
「そういえば去年もこんなことしたな!こんな下らないことばっかやっちゃうの、ホント馬鹿だ~」
「ん~~?」
思えばこの時に気づくべきだった。それでも僕は彼女の様子に目もくれず話を続けてしまった。
「ほら覚えてない?口の中に花びらが入っちゃってさぁ。桜餅の味だーー!ってやったじゃん」
「そうだっけ~~~?」
「そうだよ!あ、あとあれ。桜吹雪!とか言いながらフーってどっちがいい感じに吹けるかやったよね。今年もやってみるー?」
「え~~とぉ。それっていつだっけ~~?」
「去年だよ去年!僕はしっかり覚えてるよ!思い出すなぁ。花びら浴びせたら君の髪にさ。肩のあたりで絡まっちゃって大変でぇ~」
と、襟足までしかないショートヘアが目に入ったところで彼女は言った。
「私、去年は風邪ひいて花見に行けなかったよね。」
背筋にヒヤリと冷たいものが走るのと同時に、隣から低い声が響く。
「誰と来たの?」
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