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「あれ? 言ってなかったっけ?」
その日の夕食、僕は母さんから神宮司一家が隣に引っ越してきたことを聞かされた。
「ずいぶん前から決まっててねー、引っ越し前に清美ちゃんのお父さんから『よろしくお願いします』って電話もらってたのよー」
「言ってよ! 今日、学校から帰ったら見たこともない美少……んんっ! 女の子がいて焦ったんだから!」
「あら? あなたたち仲良かったじゃない。むしろサプライズな再会で嬉しかったんじゃない?」
「思わず無視するところだったよ」
ぶつくさ文句を言いつつ、味噌汁を口に運ぶ。
「あ、そうそう。それでね、清美ちゃん明日からたくみと同じ高校に通うことになるから。一緒に登校してあげてくれる?」
「ぶーーーーーーーッッッ!!!!!!」
思わず飲んでいた味噌汁をぶちまけてしまった。
「ちょっとたくみ! 何してんの!」
慌てて自分の料理を避難させる母さん。
でも僕にはそれどころではなかった。
「げほ、げほ。な、なに? もう一回言ってくれる?」
「だから、明日から清美ちゃんと一緒に登校してって」
「………」
い、いやいやいや、ないないない!
いくら幼なじみの女の子だからって、あんな美少女と一緒に登校なんて出来るわけがない!
「ほら、昔住んでたとはいえ、久しぶりで慣れない街だし。清美ちゃんのご両親からもたくみと一緒だったら安心するって言われてるし」
「い、いやー、そんなに危険はないと思うけどなー」
むしろ僕のほうが危険だ。
緊張のあまり走っているトラックにダイブするかもしれない。
「僕は死にましぇーん」どころじゃない。たぶん死ぬ。
「なに? 嫌なの?」
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
嫌だけど。
でも拒否するのに納得させられる理由が思い浮かばなかった。
美少女になってて緊張するから、なんて言えるわけがない。
「じゃ、決まりね。明日7時30分に清美ちゃんが迎えに来るから一緒に行ってあげてね」
「………」
すでに決定事項だったようだ。
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