8人が本棚に入れています
本棚に追加
受験が終わっても、先輩からは連絡がこなかった。そして合格発表の日、先輩は全てのSNSを削除した。
それから、私は一度も先輩と会えていない。
風の噂で、合格確実と言われていた先輩が受験に失敗したことを聞いた。
「だからって、なんで……」
受験に落ちて悲しいのも、悔しいのも分かる。他人と話したくなくなるのも分かる。
だけど、先輩にとって自分はその程度の存在だったのかと思うと、未だに泣きたくなるのだ。
先輩はイケメンじゃないし、好みの顔でもなかったし、いつもおどおどしていて、自信がなさそうで、見ているとイライラすることもあった。
私が落ち込んでいても、気の利いた言葉なんてかけてくれない。前髪を切ったって、全然気づいてくれない。
でも、私の気持ちが沈んでいる時は、何も言わずに傍にいてくれた。いつもちゃんと頷きながら私の話を聞いてくれた。私が話したことは、どんなに些細なことでも覚えていてくれた。
廊下ですれ違うと、私が一人の時は手を振ってくれた。私が誰かといる時は、寂しそうな顔でこっちを見ていたから、私から手を振ってあげた。
きっと私は、今まで好きになった誰のことよりも、先輩のことが好きだった。
そして、先輩が受けた大学を受験するくらいには、まだ先輩のことを忘れられずにいる。
もう一年以上会えていない。どんどん記憶は薄らいでいっている。それなのにまだ、私は思い出してしまう。
先輩の優しい声を、情けない微笑みを、私を見る甘い瞳を。
「先輩の嘘つき」
こんな風に綺麗に桜が咲き続けるのなら、私はきっと、先輩のことをずっと忘れられない。
最初のコメントを投稿しよう!