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 8年の歳月が流れた。  ビジネス関連の専門学校を卒業した北迫は、趣味で続けていたスケッチを飾り個展を開いた。  デパートの最上階にあるギャラリーを借りて、仕事は休暇を取って念願を叶えたのだった。  季節の草花に愛情をこめて観察して、丁寧な筆致で描いた作品が並んでいた。  眩しいくらいのスポットライトを当てて木製の額に収めた作品は、生命力に満ちている。  生まれ育った土地で、疎遠だった知人も訪れ花やお菓子を差し入れてくれたり、遠方からもチラシを見てやってくる人もいたりと驚きの連続である。 「良いものを見せてもらったよ。  ありがとう」  見ず知らずの人が目元を緩めて感謝の言葉を残していく。  真心が伝わった、と思えた。  客足が一段落して、暇を持て余し始めた頃懐かしい友人がやってきた。 「北迫、久しぶりだな。  おまえ、凄いじゃないか」  恵比須様のような笑顔を向けてきたのは、勝川だった。 「おお、ありがとうな」  立ち上がって受け付けの前に出ると、高校時代と少しも変わらないように見えた。  だがお互い、無駄口が減った気がして手持無沙汰になってしまうところに、年月を感じて戸惑っていると、 「芳名帳に名前を書いていいかな」  テーブルの前に立った勝川はペンを差し出した。 「ちょっと ───  手が不自由でね。  代わりに」  怪我(けが)でもしたのかと思い、ペンを取った。 「ええと」 「おいおい、俺の下の名前忘れたのか。  思い出せよ」  語気が不自然に強くなった。  彼もおかしなことを言ったと思ったのか、 「勝川 真裕(かつかわ まさひろ)だ。  真実の真と衣偏に谷」  と教えてくれた。  じっくりと一枚一枚見ながら、 「もしかして、画家になるのか」  などと将来の話をした。 「俺は弁護士になるんだ。  司法試験に合格した」 「へえ、凄いな。  試験大変なんだろう」  難関資格だと知ってはいたが、彼にとってどれ程重い報告だったか、その時は知る由もなかった ───
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