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8
天ぷらを突きながら、近況をお互いに話しだしたころ、
「北迫さんて、どの人だい」
勝川を縦に伸ばしたような顔をした兄がこちらを振り向いた。
「いやね、弟が『一番の友達だった』と言ってたんだよ。
へえ、そうか。
弟がお世話になりました」
北迫を訪ねてすっ飛んで来たものの、何を言ったらいいのか分からなくなった、という体だった。
「脳腫瘍でね。
医者から余命宣告を受けていたんだ。
最期の手術を受ける前に、身体が動くうちに素晴らしい絵を見られて良かった、と言っていたよ」
などと言われたが「一番の友達」という部分が腑に落ちなかった。
一緒に遊びに行ったこともないし、高校時代1年間同じクラスになっただけである。
彼には悪いが、心当たりがないのだ。
故人に対して、異を唱えるのも場違いだしその場を取り繕うように、
「亡くなる直前に書いた手紙を受け取りました」
と言うと、内ポケットに忍ばせていた封筒を取り出した。
「これは貴重な遺品ですから、お持ちください。
コピーを取ってあります」
兄はその場で中身を取り出した。
「強く生きてくれ、と書いてありました。
友達と言っても、馴れ合いのない間柄です。
彼らしい言葉でした」
胸にぎゅっと封筒を押し付けるようにした兄は、深々と頭を下げて立ち去った。
「しかし、司法試験受かったんだってな。
凄いよなあ。
闘病しながらだぞ」
誰かが呟くように言った。
本当に頭が下がる。
死の床にあっても勉強しようとする、高潔な精神に。
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