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「私、旗山くんのこと好きかもしれない」
ナナからそう言われた時はショックだった。
私も旗山くんが好きだったから。
好きな音楽も一緒。
好きな映画も一緒。
習い事も部活も一緒。
でも、彼だけは譲れない。
二人で告白したら、きっと旗山くんはナナを選ぶ。
今までがそうだったから。
遅くに習い始めたのに、ピアノ教室ではナナの方がバイエルを早く卒業した。
絵も私のほうがうまかったのに、絵画コンクールで大賞をとったのはナナだった。
勉強も運動も、何だって最初は私が教えてあげたのに。肝腎なところは全部ナナがもっていく。
初めてナナに負けたくないと思った。
それと同時にナナを取られたくないとも思った。
誰にも言い出せずに焦燥だけが募っていくうちに、ナナは旗山くんに告白すると言い出した。
悩んだ末に私は、校庭の桜の古い噂を思い出した。
学校の体育館の裏にある、樹齢百年とも言われる桜の老木。
場所も悪いし、古いゆえに倒木や落枝の危険性もあり、一時期撤去の話もあがっていた。
しかし、この地域を古くから見守っていたご神木ということで地域の反対にあい、結局そのまま。
確かにその風格漂う立ち姿には、何やら神々が宿っていそうな厳かな雰囲気があった。
『満月の日の深夜12時、満開の桜の下で愛を誓いあった恋人たちは永遠に結ばれる』
年上の従姉妹からその話を聞いたのは、まだ幼い頃だった。
「深夜」「恋人」という大人のワードが耳打ちされてドキドキしたのを覚えている。
でも、最も心臓鷲掴みにされたのは補足の部分。
『ただし、絶対にある言葉を交わしてはいけない。
その言葉を交わした途端にあらゆる不幸が襲いかかり、二人の仲は永遠に引き裂かれるだろう』
しばらくは、ご近所の桜を見ただけでなんだか恐ろしかった。
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