あとがき

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あとがき

 このたびは「monochrome -モノクローム-」をお読みいただき、ありがとうございました。  陸軍士官学校の士官候補生のボーイズラブを書いてみたい、という気持ちは、創作活動を始めたころからずっと持っていました。でも当時はあまりに広くて深い「軍隊BL沼」にビビってしまって、書きたい気持ちを封じていました。  それから三年あまり。  いろんな小説を書いてきましたけれど、やっぱりどうしたって男の軍服に惹かれる気持ちは変わらないし、軍隊を舞台にしたブロマンスなど、先行作品を読めば読むほど、陸士BLへの想いが募るわけです。それでも「今は無理」「調べものに時間がかかるもん」「もう少し書く技術が向上したら」などと自分に言い訳する日々が続き……。  そんなクヨクヨをぶっとばしたのが昨年の秋です。大好きなほしふるほたるさんのイラスト依頼スケジュールが、五月の文学フリマ合わせなら空きそうだとわかりまして、さっそく書き下ろし作品の装画を依頼しました。  それでも当初は、まだ決心がつかなくて「現代サラリーマンの小話にします」だの「働く男の制服とか作業服かな」みたいなオーダーをしていたんです。しかしそこで心の声が叫ぶのだよ、「いや、待て夏田。違うだろ」と。「貴様がほたるさんに描いてほしいのはスーツとか制服じゃないやろがい」「これを逃したら次のチャンスは何年後になるかわからんぞ」「素直に『軍服を描いてください資料は用意します』って言っちゃえよ」と、0.2秒の脳内会議の末に覚悟を決めました。 「あの、やっぱり軍服をお願いできますでしょうか…!」  こんな頭突きみたいなオーダーなのに快諾していただきました。ここから創作スタートです。国立国会図書館に利用申請の手続きをして、私がもっとも憧れていた昭和初期、太平洋戦争前夜の陸軍士官学校について調べることから始めました。さらに古書店で昔の雑誌を買ったり、ほたるさんに作画資料を送ったりしながら、小説のほうも書いては消し、書いては消しを繰り返して、この話ができました。  執筆にあたっては、当時の士官候補生がどんな時代観や価値観のなかで生きていて、本音ではどう思っていただろうかといったことに焦点を絞り、想像を広げました。そして悩みに悩んで、主人公のふたりが「国のために死ぬのではなく、貴様のために生きよう」と言い交わすラストにしました。  周防と天下井が、あの悲惨な戦争を生き延びた未来も思い浮かべます。  我々のいまの暮らしと地続きの「あの時代」に生きていたかもしれない、誠実なふたりの男の姿を、ご一緒にほんのり妄想していただけたら幸いです。  夏田樹
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